2021-01-01から1年間の記事一覧

笠井亮平『インパールの戦い ほんとうに「愚戦」だったのか』(文春新書)

「インパール作戦」といえば、無謀きわまりない大失敗、あるいは死屍累々の代名詞となっている。 しかし、イギリスの歴史家の中では「インパールの戦い」が「グレイテスト・バトル」のひとつに挙げられているのだという。そこで著者は、東南アジア史あるいは…

『墨子』(金谷治訳・中公クラシックス)

先日,「次にくるマンガ大賞2021」が発表されました!「コミックス部門」と「Webマンガ部門」とがあるのですが,なんと赤坂アカ×横槍メンゴ『推しの子』がコミックス部門の第1位に,松本直也『怪獣8号』がWebマンガ部門の第1位に輝きました!いずれも…

柚木麻子 / 伊吹有喜 / 井上荒野 / 坂井希久子 / 中村航 / 深緑野分 / 柴田よしき『注文の多い料理小説集』(文春文庫)

30人の大どんでん返しがとても痛快だったので、次に手にしたのが、料理にまつわるアンソロジー。これがまたよかった。 トップバッターの柚木麻子さんが、BUTTERとナイルパーチを掛け合わせたようなクリーンヒット(長編だと胃もたれするけれど、短編だとちょ…

モーパッサン『オルラ/オリーヴ園』(太田浩一・光文社古典新訳文庫)

光文社古典新訳文庫の「モーパッサン傑作集」。今回は,晩年の中・短編を収録した『オルラ/オリーヴ園』である。 冒頭の「ラテン語問題」がいい。学生の「ぼく」が,中年のラテン語教師に仕掛けたとある「いたずら」をめぐる物語なのだけれど,こういう軽く…

小学館文庫編集部編『超短編!大どんでん返し』(小学館文庫)

30人の脂の乗った作家陣(*)による、4ページのショートミステリー集(門井慶喜さんだけ分量オーバーで5ページ)。 いくつかは「??」と読み返したりしたけれど(そしてさらにそのいくつかは読み返しても「?????」だったけど)、ほとんどが「ああ、やら…

「ニューノーマル」時代のコミック3選

相原瑛人『ニューノーマル』(コミックアウル) 「僕たちが生まれる少し前,ひとつの感染症が世界を変えた」 相原瑛人『ニューノーマル』 感染症の流行によって,マスクの常時着用が義務づけられた近未来の日本。家族以外の口元を見ることなどおよそない中で…

藤沢周『世阿弥最後の花』(河出書房新社)

世阿弥元清、72歳にして将軍義教の勘気に触れて、佐渡に流される。悲嘆に暮れる周囲を余所に、世阿弥は従容として佐渡への道行きを受け入れる。 佐渡では順徳院に思いを馳せ、猟師の子どもに才を見いだして小鼓を教え、見張りの武士の亡き妻が夫のためにつく…

ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』(岩波書店)

この夏の自分用課題図書。ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』。 1945年夏,敗戦――。本書は,そこから日本という国がどのように立ち上がっていったのかを,豊富な資料を引用しながら描き出した力作である。 7,8年前に上巻だけ読み終えたところで中断…

川越宗一『海神の子』(文藝春秋)

主人公は「国姓爺」鄭成功。ただし、清に滅ぼされた明を再興しようと、福建や台湾を拠点に戦い続け・・・といった「国性爺合戦」のようなスカッと爽快な英雄譚ではない。 東シナ海最大の海賊の頭領として活躍する母の松に対し、子の福松(のちの国姓爺)は、…

相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社)

城塚翡翠,今度は倒叙ミステリで登場。相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』。 終盤の展開があまりにも鮮やかだった前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』。本作はその続編であり,今回はなんと倒叙ミステリ集である。当初から犯人及び犯行が明かされ,それを探偵役…

宿野かほる『ルビンの壺が割れた』(新潮文庫)

書店のポップが「大どんでん返し」を猛烈にアピールしていたので、どんなものかと買ってみた。 かつて婚約していた未帆子と一馬が、30年の時を超えてフェイスブックで再会する物語。一馬は大学の演劇サークルの代表で天才的な脚本家、未帆子は新人女優だった…

半藤一利『世界史のなかの昭和史』(平凡社ライブラリー)

半藤一利氏の「昭和」シリーズ。『昭和史』『昭和史戦後篇』『B面昭和史』と読んできて,最後残ったのがこの1冊である。『世界史のなかの昭和史』。 昭和史(主として昭和20年まで)を,世界史の視点から改めて読み解いた作品。 世界のなかの日本。世界…

辻村深月『琥珀の夏』(文藝春秋)

辻村深月という人は巫女なんじゃないかと思う。 しかし、彼女の、紡ぎ出した言葉を自在に操り人の心をえぐる能力が、本作ではどうだったか。 舞台は30年前のサマーセミナー。主人公のひとりの名前は美夏。 たしかに、夏の本、なんだけれど・・・38度の酷暑が…

鈴木由美『中先代の乱』(中公新書)

せんせいもちらっと書いていたけれど,週刊少年ジャンプで連載中の松井優征「逃げ上手の若君」が「中先代の乱」をテーマにしている。個人的にも興味を持ったのでより深く知ろうと探したところ,ちょうどよいタイミングで新書が出ていた。鈴木由美『中先代の…

西條奈加『婿どの相逢席』(幻冬舎)

時は家斉の治世だというから、文化文政の頃となろうか。江戸・新橋に店を構える仕出屋・逢見屋に、楊枝屋の四男坊・鈴之助が婿入りした。逢見屋は代々、世間の習いとは逆に、女将が店を仕切ることになっていて、妻のお千瀬は若女将として女将、大女将ととも…

トマス・ペイン『コモン・センス』(角田安正訳・光文社古典新訳文庫)

アメリカ独立の導火線となった檄文が,新訳で登場。トマス・ペイン『コモン・センス』。 1776年1月発行の小冊子で,アメリカ独立の正当性と必要性を唱えたものである。発行直後から爆発的に売れ,これをきっかけにイギリス王政への批判とアメリカ独立が…

奥山景布子『流転の中将』(PHP研究所)

幕末の「一会桑政権」とはよく聞くが、一橋慶喜・松平容保に比べて、松平定敬(さだあき)のことははっきりいって容保の弟であることくらいしか知らなかったし、NHK大河ドラマで小日向兄弟で出演していて「お~」となった程度であった。 物語は、慶応4年1…

尾脇秀和『氏名の誕生―江戸時代の名前はなぜ消えたのか』(ちくま新書)

澤田瞳子さん直木賞! おめでとうございます!! ---さて。 少し前から気になっていた本。尾脇秀和『氏名の誕生―江戸時代の名前はなぜ消えたのか』。 現在使われている「氏名」。一見すると昔からの伝統かとも思ってしまうが,実は約150年前に明治新政府…

東川篤哉『野球が好きすぎて』(実業之日本社)

先週金曜日の夕方、四条烏丸で会議があった。いてもいなくてもいいような会議なのだが、各校の代表者会議なので体は会議室に置いておかねばならぬ。四条烏丸には、四条通りをはさんで、大垣書店が2軒ある。会議のご褒美は、明るい時間から本屋に寄って、コ…

澤田瞳子『星落ちて、なお』(文藝春秋)

直木賞の発表が近づいてきた。ということで,最有力候補作を読むことに。澤田瞳子『星落ちて、なお』。 河鍋暁斎の娘・とよ。天才絵師である父の下で,幼いころから絵の手ほどきを受けていたが・・・。 河鍋暁翠(河鍋とよ)の半生を描いた力作である。父に…

東野圭吾『白鳥とコウモリ』(幻冬舎)

東京の片隅で、弁護士の遺体が発見された。殺人と死体遺棄の罪で、ある男が逮捕された。犯行を認め、自供にも矛盾はない。犯人しか知らない「秘密の暴露」もある。しかも彼は、30年前の愛知県での殺人事件についても、自分が真犯人だと言い出した。 殺人犯の…

鈴木宏昭『認知バイアス』(ブルーバックス)

『黒牢城』おもしろそうだ・・・。 ---さて,認知バイアスについての話をよく耳にするので,ちょっと勉強。鈴木宏昭『認知バイアス』。 様々な場面における認知バイアスの働きを,豊富な例とともに分かりやすく解説した本。伝統的な考え方から,最新の研究成…

米澤穂信『黒牢城』(角川書店)

織田信長に反旗を翻した荒木摂津守村重は、有岡城に立てこもっている。地下の土牢には、黒田官兵衛が幽閉されている。 ある日、安部二右衛門が織田方に寝返った。人質の息子・自念を村重は、城内の反対を押し切って殺さずに、柵の中に閉じ込めておいた。その…

一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社)

評判につられて読んでみたところ,想像以上の作品だった。一穂ミチ『スモールワールズ』。 6編からなる短編集なのだが,第1話「ネオンテトラ」からして秀逸。夫婦円満を装う妻と,家庭に恵まれない少年。水槽の中のネオンテトラ。物語は終盤,思いがけない…

萩尾望都『一度きりの大泉の話』(河出書房新社)

竹宮惠子『少年の名はジルベール』が最初に世に出されたのは2016年。回顧録でありながら、どこかしら萩尾望都への詫び状のようにも読めた。 素人の自分でもそうだ。もうひとりの当事者の声が聞きたい。 5年経って、 半世紀にわたる封印が、いちどだけ解かれ…

進撃のコミック4選

『進撃の巨人』完結記念! 久々のコミック4選!! ・原作:白井カイウ/作画:出水ぽすか『約束のネバーランド』(集英社) 完結といえば『約束のネバーランド』。考察本は以前取り上げたけれど,本編がまだだったので,この際紹介します。 活発な少女・エ…

西加奈子『漁港の肉子ちゃん』(幻冬舎文庫)

肉子ちゃんは、男にダマされ続け、小5の娘のキクりんとともに、流れ流れて北の漁港にやってきた。この小さな漁師町の狭い人間関係の中で、子どもから少女へと成長していく、キクりんの成長物語である。 登場人物についての描写はいずれもさらりとしているけ…

川瀬七緒『ヴィンテージガール』(講談社)

第165回直木賞の候補作が,以下のとおり発表されました。 ・一穂ミチ『スモールワールズ』・呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』・佐藤究『テスカトリポカ』・澤田瞳子『星落ちて、なお』・砂原浩太朗『高瀬庄左衛門御留書』 ・・・澤田瞳子さん,もう5回目…

松本敏治『自閉症は津軽弁を話さない』(角川ソフィア文庫)

きっかけは、特別支援教育とその研究に携わってきた研究者の夫と、臨床心理士として現場で働く妻と間で交わされた会話の、何気ない一言だった。「あのさぁ、自閉症の子どもって津軽弁しゃべんねっきゃ」(妻) 夫は即座に否定する。妻は常識だという。調べて…

向田邦子『父の詫び状』(文春文庫)

再び,ブルボン小林『あの人が好きって言うから…有名人の愛読書50冊読んでみた』から。今回は有働由美子の愛読書として取り上げられた,向田邦子『父の詫び状』。やはり,名前は知っているけれど,読んだことのなかった本である。 ・・・これは,ある意味…