モーパッサン『脂肪の塊/ロンドリ姉妹』(太田浩一訳・光文社古典新訳文庫)

フランス文学つながりで,モーパッサンを読むことに。今回は『脂肪の塊/ロンドリ姉妹』。表題作を含めた中・短編集である。

モーパッサン。長編『女の一生』は読んだことがあるけれど,中・短編をまとめて読むのは初めてかもしれない。面白い話,悲しい話,不思議な話・・・。様々なバリエーションに富む話が収録されていて,全く飽きるところがない。

でもやっぱり印象に残るのは,「脂肪の塊」である。

普仏戦争プロイセン軍に占領されたフランス・ルーアン。それぞれ事情を抱えた10人の男女が乗合馬車に乗り込む。その中に一人,娼婦がいて・・・。

まあ,ひどいね。やるせないね。見た目はいい人たちのエゴというか,独善というか。フランス国歌ラ・マルセイエーズがまた,切ない。

ところで「脂肪の塊」という日本語タイトル,何とかならないのかな。もうそろそろ他のタイトル,例えば本書で訳者も提示している「ブール・ド・スュイフ」とかに変えてもよい頃ではないかと思うのだけれど・・・ここまで定着してしまうと,もう難しいのかもね。


(ひ)

ハル・グレガーセン『問いこそが答えだ!』(光文社)

ビブリオバトルが少しずつ学校にも広まってきていて、うちの学年でも今取り組んでおります。あれ、本の内容もさることながら、プレゼンテーション力の問題という気もするんですよね・・・。これについては追々。

 

さて、今週いちばんおもしろかったのは「Q=A」という題の本書。
正しい問いは、ブレイクスルーをもたらし、固定観念を突き崩し、意欲をかき立てる。逆にいえば、衰退する組織においては、問うことが回避される。優れたトップは、自らも問い、メンバーにチャレンジを求める。いくつもの事例が紹介され、徹底的に問うことの重要性が説かれる。

2022年度から新しい学習指導要領が完全実施される。キーワードは「探究」である。自ら問いを立て、問題解決をめざす力を学校が育むことが求められる。本書を手にした理由のひとつでもある。

本書を読んで、確信した。
残念ながら、現状では、この試みは失敗に終わるのだろう。本書に書かれている失敗例の典型が、今の文教行政であり学校組織であるからだ。  

問いこそが答えだ!  正しく問う力が仕事と人生の視界を開く

問いこそが答えだ! 正しく問う力が仕事と人生の視界を開く

 

(こ)

ヴォルテール『カンディード』(斉藤悦則訳・光文社古典新訳文庫)

哲学書簡』『寛容論』と読んできたので,次はいよいよこちら。ヴォルテールカンディード』。

ウェストファリアの純真な青年・カンディード。恩師の「すべては最善である」との教えを何ら疑うことなく生きてきたが・・・。

戦乱,大地震,盗賊,海賊・・・。主人公のカンディードを次々と不幸が襲う。カンディードの周囲の人々も同様。とにかく,人類の歴史は災難続きだったのだな,と改めて認識する。

他方で本作は,全体が軽いトーンで貫かれている。笑いあり,皮肉あり。哲学というのは,必ずしも硬い文章でなければならないわけではない。

疾走感のある展開で,ラストの名台詞「mais il faut cultiver notre jardin」(今回の翻訳は「自分の畑を耕さなきゃ」)まであっという間だった。

とりあえず僕も,まずは自分の畑を耕すことにしよう。

カンディード (光文社古典新訳文庫)

カンディード (光文社古典新訳文庫)


(ひ)

三浦しをん『マナーはいらない 小説の書きかた講座』(集英社)

毎週木曜日の夜は「プレバト」を録画して、見ている。俳句をはじめ、水彩画、色絵筆画などに、芸能人が本気で取り組んで、先生が評価する、というものだ。
そこには先生のお手本や添削があって、違いが一目瞭然となる。なるほど、一流とそうじゃないものとの違いは、ここにあるのだ、というのが、可視化される。

この本は、Webで連載された、小説の書き方についてのエッセイである。どう構想するか、どうタイトルをつけるか、セリフの人称の問題、時制、1行空ける効果、など、実際にこう書き変えるとこんなに変わるでしょ、という説明が続いて、「なるほど~」と読み進める。プロの視点、プロとアマとの違いとは、こういうことの積み重ねなんだろう。

神は細部に宿る。

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サイン本でした。


(こ) 

宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』(新潮文庫)

池澤夏樹個人編集の日本文学全集のリストを眺めていて,ふと宮沢賢治が読みたくなった。ということで宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』(新潮文庫)。まあ,全集でなくても読めるので・・。

自筆稿や初出誌に立ち戻って本文を定め直し,校訂を最小限にとどめた新編である。大小様々な短編が収録されている。

その中で取り上げておきたいのは,やはり表題作にもなっている「銀河鉄道の夜」。

繰り返し示唆される「死」の描写。押し葉にされる鳥。パンと角砂糖,そしてミルク。子供のころはちょっと苦手な作品でもあったが,同時に,いつも心のどこかに引っかかっていたような気もする。

車窓からの眺めは,やはり何度読んでも美しい。この美しさは,百年経っても色あせない。

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)


(ひ)

桜井俊彰『長州ファイブ サクライたちの倫敦』(集英社新書)

文久3(1863)年5月、横浜から5人の若き長州藩士が上海に密航した。目的地は彼らが半年前に公使館を焼き討ちしたイギリスである。(のちの)井上馨伊藤博文、山尾庸三、遠藤謹助、井上勝の5人は、たった300トンの貨物船に揺られて帝都ロンドンにたどりつく。彼らが学んだのは、イギリス第3の大学であり、学問の自由と反骨の精神にあふれるUCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)であった。5人は今でも、Choshu Five(長州五傑)として、UCLが設立当初から広く外国人にも学びの門戸を開いていた証として語り継がれている。

長州ファイブについては知っていたものの、井上馨伊藤博文以外はほとんど知らなかったので、大変興味深く読んだ。(著者もまた、UCLの卒業生であり、愛校心が行間からにじみ出る学校紹介の本でもある。)

坂の上の雲をめざして駆け上がる5人の青春群像。きちんとした史料の裏付けにもとづきながら、軽い筆致で書かれた歴史エッセイが、とても心地よい。

長州ファイブ サムライたちの倫敦 (集英社新書)

長州ファイブ サムライたちの倫敦 (集英社新書)

  • 作者:桜井 俊彰
  • 発売日: 2020/10/16
  • メディア: 新書
 

 (こ)

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集13『樋口一葉 たけくらべ/夏目漱石/森鴎外』(河出書房新社)

久々の池澤夏樹個人編集・日本文学全集。今回は『樋口一葉 たけくらべ夏目漱石森鴎外』。

樋口一葉は「たけくらべ」,夏目漱石は「三四郎」,森鴎外は「青年」を収録。どれも一度は読んだことがあるが(おそらくまだ自宅に本もある),「たけくらべ」が川上未映子の現代語訳ということもあって,この際,改めて読んでみることにした。

 

樋口一葉たけくらべ」(川上未映子訳)

良い。すごく良い。樋口一葉が現代によみがえって新たに書き下したら,たぶんこんな風になるだろう。

かつて読んだ時は文語体だった(かなり苦労した)。それが雰囲気を崩さないまま,現代語訳に生まれ変わった。Amazonのレビューをみると賛否両論あるけれど,僕は十分,ありだと思う。川上未映子に感謝。

それにしても,子供たちの心情をリアルに描き出した秀作であるし,また優れた群像劇でもある。発表は明治28年(1895年)。よく書いたなぁ。

 

夏目漱石三四郎

冒頭の汽車のシーン。ああ,漱石の作品だ,と久々に思う。

やはり美禰子のキャラクターが良い。不思議なことに,今読んでも新鮮な感じがする。「stray sheep」は日本文学史上に残る名言であろう(あくまでも個人の感想です)。

名言といえば広田先生の「亡びるね」も挙げておきたい。明治時代だけでなく,現代の僕たちにもストレートに響く。

 

森鴎外「青年」

漱石の「三四郎」が明治41年に連載され,翌年に単行本化。これに対して鴎外の「青年」は明治43年に連載。池澤夏樹の解説にもあるけれど,こうやって並べて読むと,鴎外は「三四郎」を相当意識して「青年」を書いたようにうかがわれる。

何しろ構図がそっくり。地方から上京。実家からの仕送りで生活。調子の良い友人。気になる女性。宴会とか菊人形とか芝居見物とか,共通点を挙げるときりがない。

一方で,「青年」は「三四郎」のアンチテーゼでもある。三四郎は美禰子にほのかな恋愛感情を抱くが,「青年」の純一は坂井夫人とは恋愛感情を飛び越えて大人の関係になる。三四郎にとって与次郎は親友だが(借金の頼みにも応じる),純一にとって瀬戸は軽蔑の対象でもある(借金の頼みも断っている)。

まあ,こんな読み方ができるのも全集ならでは。良い読書ができた。


(ひ)