2022-01-01から1年間の記事一覧

五味文彦=本郷和人編『現代語訳 吾妻鏡(9)執権政治』(吉川弘文館)

もう何年もの間、NHK大河ドラマは見ていなかったが、今年の「鎌倉殿の13人」は最初から最後まで全部見た。それくらい見ごたえのあるドラマであった。 さて、第8巻の「承久の乱」まで読み進めていた『現代語訳 吾妻鏡』。どうせなら北条義時の死と、そ…

半藤一利編著『十二月八日と八月十五日』(文春文庫)

年の瀬の「徹子の部屋」で、「新しい戦前」というパワーワードがタモさん(1945年8月生まれ)の口から飛び出したそうだ。戦後78年目。明治国家とちょうど同じ歳月を重ねたことになる。近代日本の3ターン目は、どうやって幕を開け、どこへ向かうのか…

一穂ミチ『光のとこにいてね』(文藝春秋)

第168回直木賞・候補作が先日発表されました。 ・一穂ミチ『光のとこにいてね』(文藝春秋)・小川哲『地図と拳』(集英社)・雫井脩介『クロコダイル・ティアーズ』(文藝春秋)・千早茜『しろがねの葉』(新潮社)・凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社…

杉田俊介『男がつらい!』(ワニブックス)

鎌倉殿、伏線回収しまくりの最終回でした。お見事でした。 うちの学校に今年非常勤で来ていただいて、一緒にペアを組んでいる先生が手探りで始めた「男子校におけるジェンダー教育」が、なかなかおもしろい。それは、他者への理解と共感であり、多様性への寛…

新海誠『小説 言の葉の庭』(角川文庫)

オリエント急行殺人事件も「13人」の物語ですからね~。これはあるかもですね~。 --- 「じゃあ、また会うかもね。もしかしたら。雨が降ったら。」 新海誠、5作目の劇場用アニメーション。これを新海監督自らが小説にした。 わずか46分の上映時間の作品…

アガサ・クリスティー『オリエント急行の殺人』(ハヤカワ文庫)

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がいよいよ次の日曜日に最終回。主人公・法条義時が最後に非業の死を遂げるらしいのだが、どうやって死ぬのか、犯人は誰か・・・一部ネットでは「オリエント急行だ(笑)」という盛り上がりも見せている。 さて、そんなわけで、犯…

小川哲『君のクイズ』(朝日新聞出版)

小川哲さんの本が面白そうなのだけれど、どれも分厚いのでちょっと・・・と思っていたところに薄めの新刊が出版。早速読んでみた。『君のクイズ』。 クイズ番組「Q-1グランプリ」の決勝に進出した三島玲央。対戦相手の本庄絆は既に2回誤答しており、あと…

堂場瞬一『オリンピックを殺す日』(文藝春秋)

オリンピック開催が近づく6月、オリンピックと同じタイミングで謎のスポーツ大会が開催されるらしいという情報がスポーツ新聞の記者である菅谷のもとに飛び込んできた。 どうやら「ザ・ゲーム」というらしい。関係者はメディアの取材には一切口を閉ざし、徹…

牧原出『田中耕太郎 闘う司法の確立者、世界法の探求者』(中公新書)

近現代史の中には、中高生レベルの教科書には出てこないけれど、確実に今の日本の姿の形成に寄与した人たちというのが少なからず存在する。 田中耕太郎も確実にその中の一人であろう。戦前は東京帝国大学法学部教授(後に法学部長)、戦後は文部省の局長から…

柞刈湯葉『SF作家の地球旅行記』(産業編集センター)

柞刈湯葉という覆面作家の正体はよくわからないのだけれど、元分子生物学者で大学の職を得ていたのだが、任期か何かの関係で職業作家となって中京圏から東京に移り住んだ人だ、ということは知っている。 文才のある(いわゆる)理系の科学者の文章は、ほんと…

「すずめの戸締まり」とツルゲーネフ『はつ恋』

(※ネタばれにならないよう配慮していますが、気にされる方は読み飛ばしてください。) 新海誠監督の作品には、本を読むヒロインがしばしば登場する。「雲のむこう、約束の場所」の佐由理は森下さなえ『夢網』(元ネタは大下さなえ『夢網』)を読み、「秒速…

小熊英二『基礎からわかる 論文の書き方』(講談社現代新書)

小熊英二氏は鈍器本何冊も書いたり自立新書出したり、とにかく膨大な一次資料にあたってそこから非常に大きな問いに対してじわじわと包囲網を狭めていき、そして最後に仕留めるスタイルをとる研究者である。その研究スタイルに刺激を受けたゼミ生の中から、…

凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社)

映画『すずめの戸締まり』見てきました。すごかった。小説版を読んでいたが、想像をはるかに超える出来だった。ストーリー、演出、音楽から声優まで、どれをとっても最高の作品だった。・・・結局2回見た。 さて、こちらは凪良ゆうさんの新刊『汝、星のごと…

アレクサンドラ・グージョン(鳥取絹子訳)『ウクライナ現代史 独立後30年とロシア侵攻』(河出新書)

今朝目が覚めると、ポーランドにミサイルが落ちて民間人2人が死亡したというニュースが流れていた。場合によってはいよいよか・・・と思った。 今回はエスカレーションは避けられそうだが、いつ何が起きるかわからない。 『物語ウクライナの歴史』はウクライ…

新海誠原作・大場惑著『小説 ほしのこえ』(角川文庫)

新海誠監督が「すずめの戸締まり」の舞台挨拶で、次のとおり発言したという。 「『ほしのこえ』を作って『セカイ系』と呼ばれていたころは、自分が『すずめの戸締まり』のような作品を作るとは夢にも思いませんでした。」 「ほしのこえ」。新海誠監督の劇場…

モノガタリプロジェクト編『モノガタリは終わらない』(集英社)

「捨てない」をテーマにしたアンソロジー。 著者は超豪華メンバー21人。 伊坂幸太郎→三浦しをん→朝井リョウ→藤崎彩織→吉田修一→絲山秋子→角田光代→吉本ばなな→筒井康隆→川上未映子→岩井俊二→綿矢りさ→金原ひとみ→西川美和→尾崎世界観→平野啓一郎→江國香織→…

ドストエフスキー『罪と罰』(亀山郁夫訳・光文社古典新訳文庫)

今まで読んでいなかったことに引け目すら感じていたが、ようやく読むことができた。ドストエフスキー『罪と罰』。 ペテルブルグの粗末なアパートに住む青年・ラスコーリニコフ。「選ばれし者は、人を殺す権利を持つ」との自らの信念に基づき、金貸しの老女を…

ジェレミー・ブレーデン、ロジャー・グッドマン『日本の私立大学はなぜ生き残るのか-人口減少社会と同族経営:1992-2030』(中公選書)

OBの先生(数学)と話していて、この本読もうと思ってるんだけど・・・と言われたのが本書。感想聞かせて、と言われたので、去年買って斜め読みして積んであったのを読み返す。 著者は人類学の先生。グッドマン教授はオックスフォードの先生で、その指導生が…

新海誠原作・あきさかあさひ著『小説 星を追う子ども』(角川文庫)

新海誠監督、4作目の劇場用アニメーションのノベライズ版である。『小説 星を追う子ども』。 母と2人暮らしの少女・アスナ。ある日、「アガルタ」から来たという少年・シュンと出会うが――。 前作『秒速5センチメートル』から4年。これまでにない数のスタ…

石井幸孝『国鉄 「日本最大の企業」の栄光と崩壊』(中公新書) ・佐藤信之『鉄道と政治 政友会、自民党の利益誘導から地方の自立へ』(中公新書)

今年の10月14日で、鉄道開業150年! というわけで、鉄道関係の本を読むことにした。 『国鉄』は、日本最大の企業であり、巨大官僚機構でもあった国鉄が、焦土の中から立ち上がり、高度成長を支えながら、次第に機能不全に陥り、最後は強制的に解体されて再生…

榎本正樹『新海誠の世界』(KADOKAWA)

こんな本が昨年に出ていたとは知らなかった。榎本正樹『新海誠の世界』。 最初期の自主製作作品から『天気の子』まで、新海誠の全作品を読み解く論評集である。 第1章は、「最初期作品群」として、パソコンとの出会い、そして『彼女と彼女の猫』を初めとす…

鈴木エイト『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)

今週はこの本のインパクトが強すぎて・・・。 中身については、鈴木氏が丁寧に丁寧に取材を重ねて手に入れた情報を、ただひたすら書き連ねているだけである。そこに色はついていないし、変な加工はされていない。 これがすべてほんとうのことなら・・・この…

相沢沙呼『invert II 覗き窓の死角』(講談社)

反転、再び――。 相沢沙呼『invert II 覗き窓の死角』 『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、『invert 城塚翡翠倒叙集』に続く、シリーズ3作目である。相沢沙呼『invert II 覗き窓の死角』。今回は、「生者の言伝」と「覗き窓の死角」中編2作を収録。 「生者の言伝…

伊集院光『名著の話 僕とカフカのひきこもり』(KADOKAWA)

NHK「100分 de 名著」は、ときどき見てはいつも「う~~む」とうなって終わる。名前は知っているけど読んだことない本が、実はこんな本だったんだよ、と導いてもらえるし、読んだことある本が、実はこういう読み方できるんだよ、と教えてもらえる。 そんな番…

新海誠『小説 秒速5センチメートル』(角川文庫)

「ねえ、秒速5センチなんだって」「え、何が?」「桜の花びらの落ちるスピードだよ」 新海誠の作品のノベライズ版で、まだ読んでいなかったものを片っ端から読んでいる。その中から今回は『小説 秒速5センチメートル』を紹介。3作目の劇場公開作品の、監…

垣谷美雨『七十歳死亡法案、可決』(幻冬舎文庫)

去年「老後の資金がありません!」という映画が上映されて、主演の天海祐希さんが表紙にでかでかと描かれた原作本が平積みされていた。そのとき、原作者の垣谷さんという名前を知った。その後、書店で彼女の本に目が行くようになった。いずれもなかなかタイ…

麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)

麻布競馬場の作品をTwitterで最初に読んだ時、衝撃が走った。1ツイート140字という制約を逆に生かして、テンポの良い言葉とキャッチーな固有名詞をちりばめながら読ませていくショートストーリー。圧倒的なリアリティと戯画的なまでのフィクションのバラ…

柳瀬博一『親父の納棺』(幻冬舎)

コロナ禍の中、著者の父が亡くなった。見舞いに行くこともできず、スマホ越しの声が最後となった。 しかし、それで終わらない。自宅に戻ってきた父を、リモート勤務をしていた息子たちが迎え入れ、5日間ともに過ごすことになった。コロナだからできなかった…

レジー『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書)

軽い気持ちで読み始めたら、思いのほか深い内容だった。レジー『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』。 「教養」っぽいものを大雑把に手早く入手し、話を合わせるツールとしてビジネスシーンで活用する。そのような大きな流れのようなものを、著者は…

新川帆立『競争の番人』(講談社)

ドラマ「競争の番人」の原作が書店に平積みされていて(それも続編と一緒に)、ああ、新川帆立さんだったのか、大忙しやなぁ、と思って手に取る。作家デビュー2年目にしての著者の「勝負作」なのだとか。主人公は公正取引委員会のガチ体育会系女性審査官・…