2024-01-01から1年間の記事一覧

2024年の110冊(通算677~786冊)

2025年にも、すばらしい本との出会いがありますように。 == 1月 米澤穂信『可燃物』(文藝春秋) 『太平記(上)(下)』(亀田俊和訳・光文社古典新訳文庫) 町田康『口訳古事記』(講談社) 川村裕子訳注『新版 蜻蛉日記I・II』(角川ソフィア文庫) 倉…

方丈貴恵『少女には向かない完全犯罪』(講談社)

文化人類学者の川田順造さんが亡くなられた。僕にとってはレヴィ=ストロース『悲しき熱帯』の訳者である。原題の「Tristes tropiques」を「悲しき熱帯」と訳した絶妙のセンスに加え、最初から最後までレヴィ=ストロースがそのまま語り掛けてくるような名文…

あさのあつこ『アーセナルにおいでよ』(水鈴社)

今年最後のエントリー。どれにしようかと思ったけれど、大地震と飛行機事故で始まった1年、少し元気になって終わりたいので、児童文学で締めます。 高校3年生の千香の悩みは、体が大きく、何をやってもぱっとしないこと。そんな彼女のスマホに、「119番の日…

安堂ホセ『DTOPIA』(河出書房新社)

おお!せんせいから最大級のおほめの言葉が! ありがとうございます! ---直木賞候補作が発表された。せんせいお薦めの伊与原新さんもノミネート入りで、早速候補作「藍を継ぐ海」を紹介していただいたところである。 ところで今回僕が興味を持ったのは、直…

澤田瞳子『孤城春たり』(徳間書店)

大先生、超お忙しいのに、全方位どころかコミックスへの造詣の深さ・・・ ネ申。 「孤城」とは、臥牛山上にそびえる現存12天守のひとつ、備中松山城のこと。 時は幕末、新しく藩主となった板倉勝静が藩政改革のために大抜擢したのが、儒学者山田方谷であった…

1年ぶりのコミック6選

先週も紹介した、つるまいかだ『メダリスト』。米津玄師が「わたしはひとえに原作のファンです。」「とにかく素晴らしい漫画なので全人類読んでください。」と大絶賛したこともあり、改めて読み返しているのだけれど、これ、やはりすごい作品ですよ。特に1…

伊与原新『藍を継ぐ海』(新潮社)

新たな原爆文学が加わった。本作品に所収の「祈りの破片」がそれである。 舞台は長崎市の北に位置する長与町。役場に勤める小寺は、変化を極端に嫌う地方公務員の仕事に辟易しながら、淡々と住民からの要求に応える日々を過ごしている。ある日、雑木林の奥の…

角川書店編『枕草子』(角川ソフィア文庫)

何度かこのブログで紹介している、つるまいかだ『メダリスト』。アニメのオープニング主題歌が、なんと米津玄師に決定! しかもこれ、米津玄師が原作の大ファンで、アニメ化されるとの情報に接して自分の方から打診したという。すごいなぁ。 --- 「ビギナー…

青山美智子『人魚が逃げた』(PHP研究所)

調べてみたら、青山美智子さんをこのブログに上げるのは、これで8作目らしい。ファンなので許してください。 本作もまた、いつもの青山美智子の世界。舞台はある日の銀座の歩行者天国。逃げた「人魚」を探す「王子様」に出会った5人の、回復の物語。 いつも…

『更級日記』(原岡文子訳注・角川ソフィア文庫)

大河ドラマ「光る君へ」に菅原孝標女が登場すると発表された。後に『更級日記』を書くことになる女性である。 『更級日記』は江國香織さんの現代語訳で読んだことがあったが(当ブログでも紹介した)、この際ちゃんと読んでみようと思い、手を出した。 まず…

猪口孝『現代政治学叢書1 国家と社会』(東京大学出版会)

日本の実証主義政治学の発展は、猪口孝先生がいなければありませんでした。村松岐夫・大嶽秀夫両先生との雑誌『レヴァイアサン』刊行と、創刊号での鼎談「戦後日本の政治学」は、政治学を学んでいた自分のよりどころでもありました。現代政治学叢書は何度も…

山口未桜『禁忌の子』(東京創元社)

今年は新人作家の当たり年かも。そう思わせるミステリである。山口未桜『禁忌の子』。 市民病院で働く救急医・武田航。ある夜に運ばれて来た死体は、なんと彼とそっくりの顔をしていた――。 作者は現役の医師。本作で鮎川哲也賞を受賞してデビューしたのだが…

広中一成『傀儡政権』(角川新書)

サブタイトルは「日中戦争、対日協力政権史」。 ちょっと華北分離工作について調べることがあって、高校日本史の教科書には出てこないような小さな小さな現地政権が多数存在したことを知る。本書はそうしたあまたの現地政権の成立と変遷を、時系列を追って平…

近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

これも気になっていたので読んでみた本。近藤絢子『就職氷河期世代』。 就職氷河期世代とは、1990年代半ばから2000年代前半にかけて、バブル景気崩壊後の経済低迷期に就職した世代をいう。本書は、就職氷河期世代について、大規模な統計データを用い…

武田秀太郎『マルタ騎士団』(中央公論新社)

このあいだ、うちの学校で、著者の武田さんに講演していただいだんです。生徒放っておいて、私が感激してしまいまして・・・。 もうねぇ、かっこいいんですよ! 赤い礼服と黒い祭服があって、胸にマルタ十字の刺繍のある祭服で来られたんですけど、すっとひ…

宮島未奈『婚活マエストロ』(文藝春秋)

以前紹介した浅見理都『クジャクのダンス、誰が見た?』。この本格的なクライム・サスペンス作品が、広瀬すず主演・松山ケンイチ共演でテレビドラマ化され、来年1月から放送されることに!キャスティングに違和感が全くない!!でもまだ連載が続いているん…

伊与原新『八月の銀の雪』(新潮社)

2021年の本屋大賞と直木賞のノミネート作品なので、このブログに出すのは今さら感もなくはないが、今週読んだ本の中でいちばんよかったということで、ごめんなさい。(ほんとうは京都文学賞の紹介をしようと思ったんですよ。でも・・・ちょっとこの文学賞、…

仁藤敦史『加耶/任那』(中公新書)

歴史の授業で出てきた「任那(みまな)」。中学・高校の授業では、教科書の記載を超えてかなり突っ込んだ解説を受けた記憶があるのだけれど、その割にフワフワして捉えどころのない存在にも感じられた。 そうしたところ、興味深い本が出たので読んでみた。仁…

渡辺裕『校歌斉唱!』(新潮選書)

職業柄、こういうタイトルの本を見ると、とりあえず手元に置いておくことが多いもので、図書館に来る外商さん経由で注文。 音楽と近代化の関係についての研究はほんとうにたくさんあり、近代学校において音楽が果たした機能についても多くの先行研究が存在す…

三秋 縋『恋する寄生虫』(メディアワークス文庫)

美術評論家の高階秀爾さんが亡くなられた。僕にとって高階さんといえば『名画を見る眼』(岩波新書)である。学生の頃、「絵とはそういう風に鑑賞するものなのか!」と衝撃を受けた。続編の『続名画を見る眼』とともに、今でも手元に置いてある。 高階秀爾『…

安野貴博『松岡まどか、起業します』(早川書房)

「侍タイムスリッパー」めちゃくちゃよかったです~~。最初はベタなインディーズ映画かと思ったけれど、どんどん引き込まれていきました。これもまた「探偵ナイトスクープ」が引き起こした奇跡の続き・・・。 さて、本書の作者は安野貴博氏。先日の東京都知…

三秋 縋『さくらのまち』(実業之日本社)

映画「侍タイムスリッパー」。8月にたった1館で公開されたこの自主製作映画がじわじわと動員数を上げ、ついに先週、週末観客動員数トップ10にランクイン(7位)! 快挙です! ---読み終えて数日が経過したのに、まだ余韻から抜け出せないでいる。三秋 …

伊与原新『宙わたる教室』(文藝春秋)

たまたまテレビで見たドラマ。窪田正孝、やせたなぁ、ヴィーガンかぁ・・・などとそっちの方が気になったのだが、原作を書店で見つけて購入。 そういえば、伊与原さん、大先生はまだ取り上げてなかったっけ。 舞台は東京都立東新宿高校定時制。いろいろあっ…

降田 天『少女マクベス』(双葉社)/シェイクスピア『マクベス』(安西徹雄訳・光文社古典新訳文庫)

執筆担当の鮎川颯とプロット担当の萩野瑛からなる作家ユニット・降田天。その最新作が話題だということで読んでみた。『少女マクベス』。 百花演劇学校の定期公演『百獣のマクベス』の幕間で、脚本・演出を担当した生徒が転落死した。翌年の春、ちょっと変わ…

志村真幸『在野と独学の近代』(中公新書)

南方熊楠研究者である著者が、熊楠を縦糸に、そして横糸にさまざまな在野の研究者たちを掛け合わせて織り成す、「学びと研究」の歴史である。 最初に登場するのが、ダーウィン、そしてマルクスが続く。イギリスで数多くの「在野の研究者」が活躍した背景には…

辻村深月『傲慢と善良』(朝日文庫)

以前紹介したコミック・魚豊『チ。-地球の運動について-』。中世ヨーロッパを舞台に、禁じられた地動説を命がけで研究する者たちを描いたこの作品が、NHKでアニメ化されることに。昨日が第1回ということで、実はまだ見ていないんだけど、でもこれ、N…

石破茂(倉重篤郎編)『保守政治家』(講談社)

第102代内閣総理大臣となった石破茂氏の著書が8月に緊急出版されたのを、遅ればせながら購入。 石破茂という名前を初めて耳にしたのは、1988年の「ユートピア政治研究会」のときである。のちに新党さきがけを結成し、政界再編を引き起こしたメンバーの中に彼…

松沢裕作『歴史学はこう考える』(ちくま新書)

まずは大河ドラマ「光る君へ」。彰子の出産、そして敦成親王五十日の儀が、まさに紫式部日記に描かれたとおりの姿で映像に!そして朝ドラ「虎に翼」。最後の最後まで面白かった!--- 阿部拓児『アケメネス朝ペルシア』(中公新書)で歴史学に関心が向いたと…

島沢優子『スポーツ毒親』(文藝春秋)

「虎に翼」が終わってしまいました。最終回の前日に袴田さんの無罪判決をぶつけてきた静岡地裁。法とは正義とは。自由とは平等とは。さらに今日は石破新総裁誕生、桂場のモデルとなった石田氏が立ち上げた日本会議の息のかかった党内極右を吹き飛ばした岸田…

川添 愛『言語学バーリ・トゥード Round 2』(東京大学出版会)

以前紹介した川添愛『言語学バーリ・トゥード』だが、なんと続編が出た。『言語学バーリ・トゥード Round 2』。 前作に引き続き、言語学者である著者が自由奔放に語りまくる。 例えば第4章「あるあるネタはなぜ人を笑顔にしがち♪なのか」。 「~がち」とい…