2017-01-01から1年間の記事一覧

森絵都『みかづき』(集英社)

今年一番面白かった本は,間違いなく辻村深月『かがみの孤城』であった。他方,今年一番じわっときた本は,こちらである。森絵都『みかづき』。学習塾をめぐる,昭和30年代から平成までの,親子三代の物語である。 東京近郊を舞台に,「塾」とは,そして「…

村上龍『オールド・テロリスト』(文藝春秋)

時に小説家は虚実をないまぜにしながら匕首を突きつける。 村上龍もそんな小説家のひとりといえるだろうか。 本書が刊行されたのは2015年(連載は2011年からだったらしいが)。ちょうど大阪都構想が住民投票で否決され、「シルバーデモクラシー」という言葉…

佐藤正午『月の満ち欠け』(岩波書店)

直木賞とは何か。 僕は,お祭りだと思っている。 文芸なんて,もとより客観的な評価基準などなく,本質的にはただ面白いか,面白くないかという,個々人の主観的な判断しかない。そのような世界に,芥川賞と直木賞というお祭りを創設した菊池寛は,今ふりか…

藤崎彩織『ふたご』(文藝春秋)

タレント本,という言葉がある。 文芸の世界では軽い蔑称なのかもしれない。本業じゃないのに,とか,片手間に書いている,とか,タレントでなければ売れない,とか,どうせ語りおろしかゴーストライターでしょ,とか。 タレント本と言われなくなってようや…

角田光代(原作 近松門左衛門)『曾根崎心中』(リトルモア)

お初の視点から書かれた曾根崎心中。 「さあ、徳さま、早よう、早よう、早よういかせて」「さあ、徳さま、早ようお頼み申します」「さあ、徳さま、いきまひょ、いっしょにいこ」 背筋が凍る。 『八日目の蝉』もそうだったが、彼女がえぐり出すように描く女の…

原田マハ『たゆたえども沈まず』(幻冬舎)

若いころはモネやルノワールの絵に惹かれた。柔らかな光,鮮やかな色。それに比べ,セザンヌやゴッホは,どうもね,という気がしていた。 最近は違う。セザンヌやゴッホに惹かれる。この絵はすごい。というか,このエネルギーはすごい。未来への扉を指し示し…

川崎昌平『重版未定』(河出書房新社)

ちょっと箸休め。 「編集王」だとか「重版出来!」だとか、編集者ってなんだか仕事はきついけど華やかな感じで描かれることが多いように思います。 実はわたくし、1冊だけ本を書いたことがあります。社会学系の専門書でして、その業界では名の通った出版社な…

塩田武士『罪の声』(講談社)

小学生のころ,「グリコ・森永事件」というのがあった。 それまでは,事件というのは,あるいは事件報道というのは,ここではないどこかで発生して,そして遠い東京の新聞社やテレビ局を通して伝えられるものだった。政治報道も経済報道も同じだった。テレビ…

佐藤雅彦編『教科書に載った小説』(ポプラ社)

江國香織の「デューク」がセンター試験で出題されたことがあったそうで、試験会場ではあちこちからすすり泣きが聞こえたらしい。 だから、教室を感動の渦に巻き込み涙で字が読めなくなっては困るので、控えめに、しかしそれでもしれっと10代の少年少女の心…

伊坂幸太郎『AX アックス』(角川書店)

同世代,というのは結構意識することがある。 同世代で最初に社会で活躍していたのは,子役だったかと思う。10代後半に入ると,アイドルや俳優,女優なんかが出てきた。やがて同世代のスポーツ選手も活躍しだした。 伊坂幸太郎は,同世代の作家。やはり,…

恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)

人は、同じものを見聞きしても、自分の理解したいようにしか理解できないものらしい。 = 平凡なサラリーマンの家庭に育ち、プロ音楽家の道をあきらめ、楽器店に勤めながら愛する妻子と暮らすフツーのお父さん、高島明石。これが最後と、芳ヶ江国際ピアノコ…

村山早紀「百貨の魔法」(ポプラ社)

大人だって,時にはおとぎ話を読みたいときだってあるよね・・・という時におすすめなのが,村山早紀「百貨の魔法」です。 地方都市にある,「閉店が近いのでは?」と噂される百貨店。そこで働く人たちにスポットライトを当てた連作短編集です。 ストーリー…

伊坂幸太郎『クリスマスを探偵と』(河出書房新社)

伊坂幸太郎が絵本を出しました。 とはいっても、子ども向けではない、大人向けの短編小説。 クリスマス・イブの夜。とあるドイツの街で、依頼を受けて男を尾行している探偵が、公園のベンチで若い男と出会う。そして・・・? コーヒーを淹れながら、手にとっ…

門井慶喜「銀河鉄道の父」(講談社)

「銀河鉄道の父」は,宮沢賢治の生涯を,その父・宮沢政次郎の視点から描いた作品です。 これがですね,おもしろい。とにかく,父・政次郎の宮沢賢治に対するまなざしが,暖かいんです。普通,小説では,父子関係っていうと,衝突とか,反発とか,その後の邂…

又吉直樹『第2図書係補佐』(幻冬舎よしもと文庫)

神様が目の前に現れて「どんな仕事でもやってもいいよ」と言われたら、コラムニストかエッセイストになりたい、と答えようかと思う。 天野祐吉「CM天気図」とか、中島らも「明るい悩み相談室」のような、あんなのを書きたい。懐が広くて奥行きが深くて、く…

池上永一「ヒストリア」(角川書店)

「誰か戦争を止めて」。本の帯に書かれた台詞が,この作品の大きなテーマとなっています。池上永一の「ヒストリア」。 沖縄に住む女性の「知花煉」は,太平洋戦争末期の沖縄戦で熾烈な爆撃に遭い,家族すべてを失います。戦後,煉は南米ボリビアに移住します…

サンテグジュペリ『星の王子さま』

きっと、本が少しでも好きな人なら、いちどは手にしたことがあることだろう。 子どもの頃、父は自分は本なんて読まないのに、子どもが読める名作らしき本をときどき買ってきて、本棚に並べて悦に入っていた。だからきっと、ぼくの「積ん読」は父のせいだ。 …

柚月裕子「盤上の向日葵」(中央公論新社)

重く,そしてひたすら暗い。「盤上の向日葵」はそんなミステリーです。 現場に唯一残された手がかりは,伝説の名駒のみ。そのような状況で,叩き上げ刑事・石破と、かつて将棋を志した若手刑事・佐野が捜査を進めていきます。そこで浮上したのが,実業界の寵…

モンテッソーリ流「自分でできる子」の育て方

いきなり変化球勝負します。 本屋に行ったら「将棋の藤井四段も体験しました!」とモンテッソーリ教育コーナーができていて、とりあえずその中からよさげなものを1冊買って帰った。 モンテッソーリ教育という名前は聞くのだけれど、イタリアの旧リラ札にも肖…

辻村深月「かがみの孤城」(ポプラ社)

今,人に本を一冊紹介するとすれば,私は間違いなくこれを選びます。 辻村深月「かがみの孤城」。中学1年生の女の子が主人公の小説です。ある出来事をきっかけに,学校に全く行くことができず,家からも出られなくなった主人公。ある日突然,部屋の鏡が光り…