江國香織の「デューク」がセンター試験で出題されたことがあったそうで、試験会場ではあちこちからすすり泣きが聞こえたらしい。
だから、教室を感動の渦に巻き込み涙で字が読めなくなっては困るので、控えめに、しかしそれでもしれっと10代の少年少女の心の隙間にしみこんで爪痕のひとつも残しつつ、教材として使われた後には、試験問題となって漢字をカタカナに書き換えられ傍線を引かれ並び替えられ接続詞が消されて穴をあけられたり適語を考えて入れろとかされて、主人公の気持ちを読み取れとか言われてもへっちゃらな丈夫な躯体を備えた、そんな小説が編者の大人たちによって子どもたちへの期待を込めて持ち寄られた本、それが「国語教科書」というものなのだろう。
この本は、クリエイティブディレクター佐藤雅彦氏が中学高校の教科書から選りすぐった12の短編をあつめたものである。必ずしも名の通った作品ばかりではない、でも、大人になってじわじわとくる作品がそろえられている。
本文に増して、編者のあとがきが、なおのことおもしろい。
文庫化されているそうだが、ハードカバーをおすすめしたい。フォント、挿絵、紙質、注、そういうあたりもきっちり再現されているから。
(こ)