早見和真『アルプス席の母』(小学館)

高校野球がテーマの小説というと、球児が中心と相場が決まっている。この小説でも、神奈川県のチームで全国制覇を成し遂げた中学生・航太郎が主役・・・ではあるのだが、もうひとりの主人公はその母・菜々子である。夫を事故で亡くし、息子は大阪の山藤学園をめざしている。しかし、家計がそれを許さない。そんなとき、大阪の新興校・希望学園の佐伯監督から、特待生での入学のオファーが届く。航太郎は入学を即決する。菜々子は航太郎を支えるべく、南河内に居を移す。親子ともども、理不尽は覚悟していたものの、想像をはるかに超える理不尽また理不尽。航太郎はケガで1年を棒に振り、ベンチからも外れてしまった。

後半は、筆致ががらりと変わり、高3の春、そしていよいよ最後の夏の大会を迎える。希望学園は甲子園に向けて、選手も監督も「負けたら終わり」の一戦を戦い抜いてゆく。ラストはとても心地よい。

もっとも、ドラマ化はどうだろう。高校野球の裏側にあるドロドロもそれなりに描かれている。保護者会の闇も、寄付という名の監督への心付け(=裏金)もしっかり登場する。産経新聞での連載だったというが、このあたりNHKや朝日新聞毎日新聞は扱うことはできるのかな・・・?

ともあれ、父と言えば門井慶喜、母と言えば早見和真、というふうに、これからはなるのだろうか。次回作にも期待したい。

(こ)