山本 圭『嫉妬論』(光文社新書)

複数のメディアの書評欄で紹介されていたため、興味を持って読んでみた。山本 圭『嫉妬論』。

嫉妬という情念を、政治思想の観点から多角的に考察した本である。政治思想の本は多々あるけれど、こういう切り口で論じたものはなかなかないように思う。

第1章「嫉妬とは何か」は嫉妬論の総論ともいうべきもの。嫉妬についての概括的な分析や、ジェラシー、ルサンチマンシャーデンフロイデとの異同について論じる。

第2章「嫉妬の思想史」は、プラトンから近現代に至るまでの政治思想史における「嫉妬」をピックアップ。意外にも、様々な文献において「嫉妬」は記述されている。

第3章「誇示、あるいは自慢することについて」における思索の深掘りを経て、第4章「嫉妬・正義・コミュニズム」では主としてロールズの「正義論」における嫉妬の扱いについてやや批判的に論じる。ロールズは、正義にかなった社会では、嫉妬は存在するとしても、決して深刻な問題にはならないという。しかしそれは果たして説得的なものなのか。

第5章「嫉妬と民主主義」は、この本の中核部分であり、オリジナリティあふれる論考である。一般に嫉妬感情はデモクラシーにとって有害なものであり、民主主義を腐敗させてしまうものと考えられてきたものの、果たしてそうだろうか、と著者は投げかける。「嫉妬の行き過ぎは、他者への信頼を損ない、社会を分断するかぎりで、民主主義を脅威にさらすに違いない」が、「民主主義こそ人々の嫉妬心をいっそう激しくかき立て、それを社会に呼び込む当のもの」ではないかという(204、205頁)。なかなか興味深い考察である。

著者は「あとがき」で「どれだけ偉くなっても、嫉妬やルサンチマンは消えないんだよ」という、懇親会の席でのある人物の発言を引用している。僕にも思い当たる節がないではない。嫉妬というものは、なかなかやっかいな感情である。

山本 圭『嫉妬論』(光文社新書


(ひ)