浅倉秋成『家族解散まで千キロメートル』(角川書店)

 主人公は周(29)、八王子市の公務員。警察官の彼女と婚約し、山梨県の実家を出ることになった。姉のあすなも結婚することになり、実家を解体することになったので、すでに家を出ていた兄の惣太郎も夫婦で手伝いにやってきた。父は「あの事件」以来、家にはほとんど居着かなくなった。あすなの婚約者もやってきて、母と一緒に6人で、最後の作業をする。実家の解体とともに、喜佐家は解散することになった。これが家族がそろう最後なのだ。
 そんなとき、青森の神社から忽然と消えて騒ぎになっている「ご神体」が、我が家の鍵のかかった物置から見つかった。返しに行かなければ・・・。

 本作はタイムリミットサスペンスであり、ミステリーである。ご神体を盗み、物置に隠したのは誰か? 容疑者は二転三転する。謎の男に追いかけられる。果たして犯人は誰なのか?
 本作はまた、ロードノベルである。山梨から青森までの道中で、そしてたどりついた十和田の神社で、まもなく解散する家族は、少しずつ心を開いてゆく。ほんとうにこの家族は解散してしまうのだろうか?

 しかし、本作品はそれだけではない。ご神体を盗んだ真犯人がわかったあと、まだ話は続く。残り4分の1が、本作のもうひとつの(そしてほんとうの)ミステリーである。

 長い長いセリフのやりとりが続き、ラストシーンは、周の結婚式だ。さて、その行方は・・・?

 ミステリーと思って読んだら、かなり違和感があるし、期待した読後感は得られない。むしろ家族のあり方というテーマに挑んだ小説なんだと思えば、それは成功していると思う。 

(こ)