京都の書店には「京都本」コーナーがある。それでまた、けっこう品ぞろえが多いのだ。「京都本大賞」というのもあって、それなりに定着してきた感がある。
ちなみに、自分の中では『有頂天家族』が最高の京都本なんですけど。
この「京都本」というジャンルだが、個人的にはあまり好きではなくて、無理に京都を舞台にすることで、やたらと人工的ないやらしい仕上がりになってしまった失敗作にもときどき出会う。このあいだ読んだのはひどかった。京都人がよそ者の主人公をねちねちいじめる設定が最悪だった。
それで、あまりの後味の悪さに、口直しにと思ってきれいな桜の表紙の文庫本を手にした。まぁこれもベタな京都本なんだろな、と読んでみると、その予想は見事に裏切られることになる。
本書は、京都を舞台にした、6本の短編集である。ミステリーということになっているが、謎解きメインというよりも、どんでん返し6連作、というところだろうか。
先鋒の「おばあちゃんといっしょ」は詐欺師ものの王道であり、開始早々に一本とられたあと、タイトルにもなった3番手の「二十年目の桜疎水」も、疏水の桜が感情を一気に高めてくれる。三条大橋、真如堂、疏水分流、曼殊院、大原、寺町、上賀茂神社と、次々と実在の場所が舞台となるものの、京都はあくまで小道具であり、京都という設定だからこそ、登場人物の描写が分厚くなっている。トリを務める「おじいちゃんを探せ」はけっこうどんよりくる設定なのだが、それでも最後はすっきりと前を向いて終わる。
ああ、おもしろかった。
第8回「京都本大賞」受賞作。
(こ)