2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

佐藤友哉『転生!太宰治2 芥川賞が,ほしいのです』(星海社FICTIONS)

今年度の本屋大賞発表まで,あと10日余り。本命不在の中,近年まれにみる大混戦となることが予想されます。 個人的には,瀬尾まいこ『そして,バトンは渡された』を推したいです。波乱万丈のストーリーでも,ドラマティックな展開でもない。そもそも決して…

寮美千子編『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』(新潮文庫)

作家の寮美千子氏が、奈良少年刑務所が受刑者を相手に実施している「社会性涵養プログラム」の一環として、童話や詩を使った情操教育に取り組んだ記録である。 凶悪犯罪を犯して服役している20歳そこそこの青年たちが、幼な子のように自分をさらけ出して、の…

今村昌弘『魔眼の匣の殺人』(東京創元社)

今村昌弘。デビュー作『屍人荘の殺人』のインパクトは大きかった。「このミス」「週刊文春ミステリーベスト10」「本格ミステリベスト10」でいずれも1位(国内部門)を取り,何と本屋大賞でも3位にランクインした。 その今村昌弘,待望の2作目である。…

「グリーンブック」(2018年、アメリカ)

今週は映画です。 アカデミー賞は「差別」と「そっくりさん」が交互に受賞しているイメージがあって、今年は差別ものの年だった。とはいいつつも、王道をいく作品づくりで、安心して見ていられるものであった。 舞台は1962年アメリカ。黒人天才ピアニスト・D…

半藤一利『B面昭和史 1926-1945』(平凡社ライブラリー)

これも待望の文庫化である。半藤一利『B面昭和史 1926-1945』。 ベストセラー『昭和史 1926-1945』の姉妹編である。『昭和史 1926-1945』では政治,経済,外交といった「A面」について語られていたのに対し,こちらの本では「B面」,すなわち一般市民(半…

波多野誼余夫・稲垣佳世子『無気力の心理学 やりがいの条件』(中公新書)

この1週間は、学年末考査の作問実施採点(ただいま徹夜で採点の途中・・・)に明け暮れ、その合間には心理学系の本しか読まなかったので、2週連続で申し訳ないです。 いちばんおもしろかったのが、先週の『人はいかに学ぶか』の前に書かれた『無気力の心理学…

垣根涼介『室町無頼』(全2巻,新潮文庫)

「文庫化されたら読もう」と思っていたところ,文庫化された。この2月はそういう作品が多かった。これもその一つ。垣根涼介『室町無頼』。 応仁の乱より少し前の,京の都。治安は乱れ,町には餓死者があふれている。少年・才蔵は,ならず者の頭目にして市中…

稲垣佳世子・波多野誼余夫『人はいかに学ぶか 日常的認知の世界』(中公新書)

「わかってくれた」と思っていた相手がほんとうのところはわかっておらず、実は「わからない」ということがわからなかった、というできごとがあって、「わかる」とは何か、ということについて考えさせられることがあった。 いわゆる「メタ認知」というやつに…

プラトン『テアイテトス』(渡辺邦夫訳,光文社古典新訳文庫)

光文社古典新訳文庫では,1,2年に1冊くらいの割合でプラトンの著作を刊行している(僕もずっと読み続けている。)。本が売れない,ましてやギリシャ哲学の本などそうそう売れないのではないかもと思われるこの時代にあって,貴重な存在である。 今回,『…