2017-12-01から1ヶ月間の記事一覧

森絵都『みかづき』(集英社)

今年一番面白かった本は,間違いなく辻村深月『かがみの孤城』であった。他方,今年一番じわっときた本は,こちらである。森絵都『みかづき』。学習塾をめぐる,昭和30年代から平成までの,親子三代の物語である。 東京近郊を舞台に,「塾」とは,そして「…

村上龍『オールド・テロリスト』(文藝春秋)

時に小説家は虚実をないまぜにしながら匕首を突きつける。 村上龍もそんな小説家のひとりといえるだろうか。 本書が刊行されたのは2015年(連載は2011年からだったらしいが)。ちょうど大阪都構想が住民投票で否決され、「シルバーデモクラシー」という言葉…

佐藤正午『月の満ち欠け』(岩波書店)

直木賞とは何か。 僕は,お祭りだと思っている。 文芸なんて,もとより客観的な評価基準などなく,本質的にはただ面白いか,面白くないかという,個々人の主観的な判断しかない。そのような世界に,芥川賞と直木賞というお祭りを創設した菊池寛は,今ふりか…

藤崎彩織『ふたご』(文藝春秋)

タレント本,という言葉がある。 文芸の世界では軽い蔑称なのかもしれない。本業じゃないのに,とか,片手間に書いている,とか,タレントでなければ売れない,とか,どうせ語りおろしかゴーストライターでしょ,とか。 タレント本と言われなくなってようや…

角田光代(原作 近松門左衛門)『曾根崎心中』(リトルモア)

お初の視点から書かれた曾根崎心中。 「さあ、徳さま、早よう、早よう、早よういかせて」「さあ、徳さま、早ようお頼み申します」「さあ、徳さま、いきまひょ、いっしょにいこ」 背筋が凍る。 『八日目の蝉』もそうだったが、彼女がえぐり出すように描く女の…

原田マハ『たゆたえども沈まず』(幻冬舎)

若いころはモネやルノワールの絵に惹かれた。柔らかな光,鮮やかな色。それに比べ,セザンヌやゴッホは,どうもね,という気がしていた。 最近は違う。セザンヌやゴッホに惹かれる。この絵はすごい。というか,このエネルギーはすごい。未来への扉を指し示し…

川崎昌平『重版未定』(河出書房新社)

ちょっと箸休め。 「編集王」だとか「重版出来!」だとか、編集者ってなんだか仕事はきついけど華やかな感じで描かれることが多いように思います。 実はわたくし、1冊だけ本を書いたことがあります。社会学系の専門書でして、その業界では名の通った出版社な…

塩田武士『罪の声』(講談社)

小学生のころ,「グリコ・森永事件」というのがあった。 それまでは,事件というのは,あるいは事件報道というのは,ここではないどこかで発生して,そして遠い東京の新聞社やテレビ局を通して伝えられるものだった。政治報道も経済報道も同じだった。テレビ…