2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)

ディストピア小説か,それともユートピア小説か。村田沙耶香『消滅世界』。 2年前の芥川賞受賞作『コンビニ人間』は衝撃だった。何が普通で,何が普通ではないのかという感覚が,根元から揺さぶられた。その『コンビニ人間』よりも「遙かに力作」(佐藤優・…

西原理恵子『上京ものがたり』(小学館ビッグコミックス)

NHKーBS1に「最後の講義」という番組がある。今日が最後の一日だとしたら、あなたはどのようなメッセージを残しますか?、というもので、先週の放送では、りえぞう先生が東京女子大学で学生さんを相手に、女性の生きざまについて語っていた。真面目に…

須賀しのぶ『夏空白花』(ポプラ社)

夏。終戦。そして,高校野球。須賀しのぶ『夏空白花(なつぞら・はっか)』は,終戦直後,「全国中等野球大会」(後の高校野球)復活のために奔走する一記者の物語である。 話は昭和20年8月15日,玉音放送の場面から始まる。新聞記者の神住(かすみ)は…

倉田タカシ『うなぎばか』(早川書房)

暑い。こんな日には、うなぎでも食べて、元気出そうか。そんなわけで、鰻重を食べる代わりに、本屋で手にしたのが、うなぎばか。 舞台は、うなぎが絶滅した世界。 秘伝のうなぎのたれをめぐる三世代の話(うなぎばか)。密漁監視するうなぎ型ロボットと「さ…

パスカル『パンセ(抄)』(鹿島茂訳,飛鳥新社)/アウグスティヌス『告白 III』(山田晶訳,中公文庫)

これまでいろいろ思想・哲学の本をアドホックに読んできたけれど,ちょっと基礎的なところから整理したくなって,小寺聡編『もういちど読む山川倫理』(山川出版社)を購入して読んだ(夏休みだし。)。高校の教科書を大人向けにアレンジしたシリーズの一冊…

白井聡『国体論 菊と星条旗』(集英社新書)

今年上半期、たくさんの新書が刊行されたけれど、個人的に1位はこれだと思う。 『永続敗戦論』で一躍論壇に躍り出た白井聡氏が、近代前半(明治維新~敗戦)と近代後半(敗戦~現在)について「国体」の形成・安定・崩壊、という3つの時代区分を設定しなが…

ショーペンハウアー『幸福について』(鈴木芳子訳,光文社古典新訳文庫)

話題の映画『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)見てきましたよ~。いや~,最高!!何を書いてもネタバレになりそうなので何も書けないけれど,もう最高!!この作品を生み出した全てのスタッフとキャストに感謝です。ありがとう!! (なお,画面酔い…

野澤千絵『老いる家 崩れる街』(講談社現代新書)

オリンピックのマラソン競技ためにサマータイムの導入を検討するとかいう、頭のクラクラするような話を聞いて、この本のことをふと思い出した。 続々と建設される新築マンションを見ながら、人は減るのに家建てて、どうなるんだろう、とつねづね思っていた。…

『ヨハネの黙示録』(小河陽訳,講談社学術文庫)

再び『日経おとなのOFF』8月号から。 名著特集の「宗教書」のコーナーで,『法華経』と並んで紹介されていたのが『聖書』である。『聖書』かあ・・・。読んだ部分と読んでいない部分とがあるなあ。いや,むしろ読んでいない部分の方が圧倒的に多いか。・…

遠藤周作『女の一生 2部 サチ子の場合』(新潮文庫)

幼馴染のサチ子と修平、そしてコルベ神父の3人の人生を交差させながら、少しずつ息苦しくおかしくなっていく時代の中で、しかしそんな時代だからこそ浮かび上がる人間愛が、静かに、熱く、円熟期の遠藤周作が筆遣いによって紡ぎだされていく。 コルベ神父は…