2019-01-01から1年間の記事一覧

毛利嘉孝『バンクシー アート・テロリスト』(光文社新書)

バンクシー。今年の1月に東京都内の防潮堤で「絵」が発見され,ちょっとした騒動になっていた。でも,正直,あまり知らないんだよなぁ・・・と思っていたところ,最近になって手ごろな本が出た。毛利嘉孝『バンクシー アート・テロリスト』。 バンクシーに…

苅谷剛彦『追いついた近代 消えた近代 -戦後日本の自己像と教育―』(岩波書店)

今年の最後は、自分のフィールドから1冊。 私たちは、modernという英単語に「近代」と「現代」という2つの意味を与えている。「近代」と「現代」の違いは何かといわれると、実は明らかではない。そして日本の近代は日本の「(追いつき型)近代化」とセットに…

相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(講談社)

今週,第162回直木賞の候補作が以下のとおり発表されました。 ・小川哲『噓と正典』(早川書房)・川越宗一『熱源』(文藝春秋)・呉勝浩『スワン』(KADOKAWA)・誉田哲也『背中の蜘蛛』(双葉社)・湊かなえ『落日』(角川春樹事務所) 当ブログでも紹…

永井隆『この子を残して』(青空文庫)

インフルエンザで4日ほど寝込んだ。チビたちにうつしては大変なので父は4畳半の和室に隔離され、ちょっとしたバリケードを築いて立ち入りを禁止した。チビたちは遠目に、とうちゃん、だいじょうぶー、はやくよくなってね-、と気を遣ってくれる 今、妻が突…

須賀しのぶ『荒城に白百合ありて』(角川書店)

幕末を舞台にした,これまでにない歴史小説である。須賀しのぶ『荒城に白百合ありて』。 安政の大地震により燃えさかる江戸の町。昌平坂学問所で学んでいた薩摩の青年・伊織は,ふらふらとさまよい歩く美しい少女・鏡子と出会う。鏡子は,会津藩士の娘であっ…

遠藤周作『わたしが・棄てた・女』(講談社文庫)

『おバカさん』に続いて『わたしが・棄てた・女』。1963年の作品である。 主人公は、大学生の吉岡努と田舎から出てきた(といっても川越なんだけど)女工の森田ミツ。吉岡がいわゆるナンパしてヤリ捨てるわけだが、ミツは吉岡を待ち続ける。吉岡は勤務先の社…

辻村深月『ツナグ 想い人の心得』(新潮社)

死者との再会をテーマにした連作短編集『ツナグ』に,何と続編が出た。辻村深月『ツナグ 想い人の心得』。 舞台は前作から7年後の世界。一生に一度だけ,死者との再会をかなえる「使者(ツナグ)」。今回もまた,様々な依頼人が「使者」の元を訪れる・・・…

松岡洋右『東亜全局の動揺』(経営科学出版)

Facebookに毎日のように広告が届いているので、根負けしてクリックしたら、この本のサイトに飛んでいった。GHQが焚書処分としたとかいう煽りはさておき、ほんとうに松岡洋右が書いたものであることは間違いなさそうなので、本体無料送料負担(550円)で入…

奥乃桜子『それってパクリじゃないですか?~新米知的財産部員のお仕事~』(集英社オレンジ文庫)

特許権,商標権,著作権,意匠権・・・。そんな知的財産のお話が,ついにライト文芸に! 奥乃桜子『それってパクリじゃないですか?~新米知的財産部員のお仕事~』。 中堅メーカーに勤める藤崎亜季は,設立されたばかりの知的財産部に異動となったものの,…

遠藤周作『おバカさん』(小学館 P+D BOOKS)

長崎・外海の遠藤周作文学館で、企画展「〝愛〟とは棄てないことーー遠藤周作〝愛〟のメッセージ」が開かれている(2018年7月~2020年6月)。 第1部では、遠藤作品の4人の登場人物を通じて、遠藤のメッセージを読み解いている。第2部では家族の愛をテーマに、…

吉野作造『憲政の本義、その有終の美』(山田博雄訳,光文社古典新訳文庫)

「民本主義」を唱道した政治学者・吉野作造。その代表作である「憲政の本義を説いて其有終の美を済すの途を論ず」が,この度,現代語訳になった。題して『憲政の本義、その有終の美』(山田博雄訳)。 1916年(大正5年)の作品である。しかし,ここで説…

ジョー・オダネル『トランクの中の日本』(小学館)

ローマ教皇フランシスコが来日された。明日、長崎・広島と被爆地を回り、核廃絶と平和を求めるメッセージを世界に向けて発信されることだろう。 教皇は一昨年の末、「焼き場に立つ少年」の写真に「戦争がもたらすもの」というメッセージを添えて、配布された…

川越宗一『熱源』(文藝春秋)

新人離れした新人の,2作目にして超大作である。川越宗一『熱源』。 樺太生まれのアイヌ,ヤヨマネクフ。リトアニア生まれのポーランド人,ブロニスワフ・ピウスツキ。実在の人物であるこの2人を軸に,アイヌとは何か,そして文明とは何かを描いた骨太の歴…

SONO『教派擬人化マンガ ピューりたん』(キリスト新聞社)

聖エクシリア学園の中等部に入学したピューリたん、兄は改革派。カトリックくん(なぜカトリッくんじゃないのだろう?)や正教会くん、聖公会くんたちと、楽しく学園生活を過ごしています。 ピューリたんカードゲームがついています。教派の違いを乗り越えて…

映画『蜜蜂と遠雷』(監督・石川慶)

原作は既にせんせいが紹介済みなので,映画版の方を。 原作を読んだのは,発売間もない頃だったと思う。分厚い本だったので,まあ4,5日から1週間くらいは持つかな,なんて考えていたら・・・面白くて深夜まで一気読み。おかげで翌日はものすごく眠かった…

おおたとしまさ『新・男子校という選択』(日経プレミアシリーズ)

日本中の5000の高校の中で、男子校は100校しかない。その男子校の「よさ」について、いろんな男子校(首都圏メイン)を回って考察したものをまとめたのが本書。著者自身も麻布の出身だそうで、 名門校シリーズとか学校の取材を重ねて著作も多いので、その豊…

砥上裕將『線は、僕を描く』(講談社)

新人離れした新人のデビュー作である。砥上裕將『線は、僕を描く』。 不慮の事故で両親を亡くし,「ガラスの内側」の景色しか見えない日々を送っていた「僕」。ある日,偶然にも水墨画の巨匠・篠田湖山と出会い・・・。 水墨画の世界をテーマに描いた力作で…

宇佐美まこと『展望塔のラプンツェル』(光文社)

神奈川県多摩川市。海岸沿いの工業地帯は、日雇い労働者とヤクザとコリアンとフィリピーナと、行き場のない子どもたちが暮らす、暴力が支配する街である。市の北部は瀟洒な住宅街で、そこの住人たちはこのことを知らない、あるいは見ようとしない。 2組の「…

貴堂嘉之『シリーズ アメリカ合衆国史2-南北戦争の時代』(岩波新書)

『資本主義と自由』,昔読みましたよ~。衝撃だったなあ。これまでに読んだ中で衝撃を受けた本(感銘を受けた本,ではなくて)を10冊挙げろと言われると,確実に入る本ですね。---さて。 先週に引き続き,岩波新書の「シリーズ アメリカ合衆国史」である。…

ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』(日経BP社)

フリードマンが本書のもとになる講義をしたのが1956年。リバタリアンあるいはマネタリストと評される彼の政策提言の骨子は「自由」である。彼にとっては政治的自由も経済的自由もコインの裏表であって、自由をコントロールしようとする弊害は、コントロール…

和田光弘『シリーズ アメリカ合衆国史1-植民地から建国へ』(岩波新書)

フランス史の次はどの国の歴史を読もうかと思っていたところ,ちょうどよいタイミングで,岩波新書の「シリーズ アメリカ合衆国史」(全4巻)が刊行され始めていた。早速,第1巻を購入。和田光弘『植民地から建国へ』である。 植民地時代のアメリカから,…

原田隆之『サイコパスの真実』(ちくま新書)

今週は、神戸の公立小学校での苛烈なパワハラあるいは教師間暴力(あれは「いじめ」などではない)が巷間で耳目を集めているが、公表された謝罪文のひどさを指摘して、あるいは晒された動画から、サイコパスなんじゃないか、みたいな書き込みが流れてきた。…

宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』(岩波新書)

読んでみたいとは思うけれど,でも読み切れないだろうなとも思っている本がいくつかある。モンテーニュの『エセー(随想録)』もその1つで,興味はあるんだけれども,白水社版で全7巻という分量にちょっと腰が引けてしまうのである。 そう思っていたところ…

門井慶喜『定価のない本』(東京創元社)

門井慶喜、ミステリーを書く。 昭和21年8月15日、神田猿楽町の倉庫で、ひとりの古書店主が命を落とした。本が雪崩をうって落ちてきて、折れた肋骨が内蔵に刺さったのだという。亡くなった芳松の先輩でありライバルでもあった琴岡庄治は、事後処理を引き…

山本博文「『忠臣蔵』の決算書」(新潮新書)

また映画の話で恐縮だが,「決算!忠臣蔵」(主演:堤真一,岡村隆史 脚本・監督:中村義洋)の予告編が面白かった。討ち入りをするのにはカネが必要,という当たり前のことを正面から描いたコメディ映画である。 興味を持ったので,「原作」としてクレジッ…

はるき悦巳『じゃりン子チエ』(双葉文庫)

じゃりン子チエのテレビアニメは、ちょうど小学生の時にリアルタイムに見ていた。当時は大阪に西成なる地域があることも知らず、テツとよし江の関係もよく理解せず、ホルモンもてっちゃんも食べたことはなかったが、土曜日の夕方にテレビの前で、チエちゃん…

野崎まど『HELLO WORLD』(集英社文庫)

映画「HELLO WORLD」を見た後,少しモヤモヤしたものが残った。ストーリーがちょっと破綻しているのではないか。この点,「原作」に当たる小説版ではどうなっていたのだろう。そう思って,読んでみた。野崎まど『HELLO WORLD』。 ・・・そ う い う こ と か…

サイゼリヤ『サイゼリヤのまちがいさがし』(新星出版社)

「高野聖」読みました。泉鏡花28歳のときの怪奇譚。江戸の文学を受け継ぐリズムと、近代文学の構成と、鏡花の紡ぐ言葉が描き出すビジュアルとが折り重なって、ねっとりと体にまつわりながら、旅僧とともに「女」のもとに引きずり落ちていく感覚が、たまらな…

小田中 直樹『フランス現代史』(岩波新書)

京都を舞台にした映画「HELLO WORLD」,早速見てきました!ストーリーは・・・う~ん,いろいろと言いたいところはある。ただ,京都の街並みの描写は最高! ---さて。 『フランス史10講』を読んで,フランスの現代史をより知りたいと思った。そこで読んで…

為永春水/伊賀公『江戸うつし 春色梅児誉美』(文芸社)

大学受験するとき、文化史は大の苦手で、江戸時代の文学といっても、洒落本と滑稽本と黄表紙と人情本の違いがよくわからなかった。天保の改革で風紀の粛正があって、作家さんが捕まったんだったっけ。 ・・・その捕まった人情本作家の代表作が「春色梅児誉美…