原田隆之『サイコパスの真実』(ちくま新書)

 今週は、神戸の公立小学校での苛烈なパワハラあるいは教師間暴力(あれは「いじめ」などではない)が巷間で耳目を集めているが、公表された謝罪文のひどさを指摘して、あるいは晒された動画から、サイコパスなんじゃないか、みたいな書き込みが流れてきた。サイコパスといえば、安倍首相やトランプ大統領もそうだってよく言われてるよな。
 たしかに、通常の精神の持ち主だとあんなことはできないだろう、ふつう良心があればやらないだろう、ということを、平気で乗り越える人は一定割合いる。そういうときに「サイコパス」という表現が使われるようなのだが、さて、自分は「サイコパス」のことをどれくらい知っているのかと思うと、せいぜい映画の中でのハンニバル・レクター博士くらいかな・・・というので手にしたのがこの本。
 著者は犯罪心理学の専門家で、矯正の現場で数多くの事例に接してきた人である。

「彼らは、他者の権利や尊厳を考慮せず、自己の利益のみに関心があり、平気で嘘をついたり、冷酷な仕打ちをしたりする。失敗を他人のせいにし、些細なことで怒りを爆発させ、攻撃的な言動を取る。」
「人当たりがよく、優しい言葉をかけ、魅力的な人柄。だけど、よくよく付き合うと、言葉だけが上滑りしていて、感情自体は薄っぺらい。」

こうしたサイコパスの特徴は、4つの因子に整理される。
「対人因子(表面的な魅力、虚言癖、自己中心性など)」
「感情因子(良心の欠如、共感性や罪悪感の欠如、浅薄な情緒性など)」
生活様式因子(衝動性と刺激希求性、無責任性など)」
「反社会的因子(非行、犯罪)」
この4つのすべてを満たす必要はなく、サイコパスがよい方向に出て、成功者となる人も少なくない(その典型が、スティーブ・ジョブズ)。難しい手術を冷静にやってのけるスーパードクター、大混乱の市場で冷静な判断を下していく伝説のファンドマネージャー、戦場で窮地に陥っても的確な判断で部下を救う軍司令官。こうした、能力が高く、反社会性の低い、非暴力的な「よいサイコパス」もあり、「マイルド・サイコパス」とか「向社会的サイコパス」というらしい。そして人類の進化の過程でも、サイコパスは重要な役割を果たしてきたのだそうだ。サイコパスも奥が深い。

さて、筆者は最後にこんな指摘をしている(本部中の傍点は下線で表現)。

「進化論的な意味からは、サイコパスの存在には人類にとってそれなりの意味があり、一つの個性として共存するしかないことを述べたが、しかしやはり、核兵器時代の現代においては、どうしても気をつけなければならないことがある。
 それは、シリアルキラーによる犯罪でも、身近な隣人のサイコパスによる迷惑でもなく、サイコパスを指導者として選ばないということだ。いかに表面的にカリスマ的魅力があり、響きのよい言葉を操り、強い言葉で感情を揺さぶられようとも、その正体を見きわめる眼を養わないといけない。」

サイコパスの真実 (ちくま新書)

サイコパスの真実 (ちくま新書)

 

 (こ)