早見和真『アルプス席の母』(小学館)

高校野球がテーマの小説というと、球児が中心と相場が決まっている。この小説でも、神奈川県のチームで全国制覇を成し遂げた中学生・航太郎が主役・・・ではあるのだが、もうひとりの主人公はその母・菜々子である。夫を事故で亡くし、息子は大阪の山藤学園…

『和泉式部日記』(近藤みゆき訳注・角川ソフィア文庫)

宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』が本屋大賞! おめでとうございます!膳所から世界へ! ---さて、再び平安の沼へ。今回は「和泉式部日記」を読むことにした。まずはお約束の「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」シリーズから川村裕子編『和泉式部日…

戸谷洋志『親ガチャの哲学』(新潮新書)

万城目さんに続いて宮島さん、百万遍文壇?絶好調ですね。そして中日弱いと言って、ごめんなさい。 前年度の余韻に浸る間もなく、クラス開き、授業始まりと、新年度が始まってしまいました。空き時間に読んだのが本書。「親ガチャ」についてルポだったり社会…

夏川草介『スピノザの診察室』(水鈴社)/小川哲『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社)

朝ドラ「虎に翼」がとてつもなく面白い。 憲法14条の条文の朗読から始まったこのドラマ。戦前戦後の男女同権という重いテーマを扱いながらも、笑いあり・涙ありのとんでもないエンタメ作品に仕上がっている。特に昨日放送分のラストは感動した。NHKのド…

明智憲三郎『本能寺の変431年目の真実』(文芸社文庫)

春休み、家族旅行に出かけました。泊まったホテルには2000冊のミニ図書室があるというので覗いてみた。そこにあったのは、文芸社と草思社「だけ」が並べられた本棚でありました・・・。 ほとんどが自費出版のような本ばかりが、壁一面にずらりと並ぶ中から何…

浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(全12巻・ビッグコミックススペシャル)

女子高生の小山門出(こやま・かどで)と中川凰蘭(なかがわ・おうらん)。何気ない日常生活を送る2人だが、空には常に巨大な『母艦』が浮かぶ。3年前の8月31日、『侵略者』が突如来襲し――。 浅野いにおが2014年から8年かけて連載した作品である。…

森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』(中央公論新社)

森見氏の手にかかれば、山月記は大文字に駆け上がってツバまき散らすし、メロスは京都市内走り回るし、北白川別当町を自転車で走り、百万遍に鯉を背負った乙女が現れ、夷川ダムには狸の一家が暮らすようになる。 さて今回は、鴨川べりにビッグベンがそびえる…

津村記久子『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版)

引き続き本屋大賞ノミネート作品。この際、普段なかなか読まなさそうなタイプのを読んでみた。津村記久子『水車小屋のネネ』。 18歳の理佐は、8歳の妹・律と2人で暮らすことに。水車小屋にはしゃべる鳥のネネがいて――。 姉と妹の、40年にもわたる生活…

クリス・ミラー(千葉敏生訳)『半導体戦争』(ダイヤモンド社)

「放課後ミステリクラブ」、さっそく買ったらチビが一瞬で読み終えて、「おもしろかったよ」とご満悦でした。 半導体の歴史は、第2次大戦後における世界の覇権の歴史でもある。 最初はアメリカ国内の物語であった。真空管の時代から、トランジスタが登場し、…

知念実希人『放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件』(ライツ社)

平安時代という沼にどっぷりハマっているうちに、気が付けば本屋大賞の季節になっていた。とりあえず何か読むか・・・と思っていたところ、目についたのがこちら。知念実希人『放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件』。 本屋大賞の常連ともいうべき…

青山美智子『リカバリー・カバヒコ』(光文社)

作品の波長というものがあって、それが文体なのかストーリー展開なのかわからないけれど、波長が合うのか読んでいて細胞レベルで落ち着く作品というものがある。自分にとっては、それが青山美智子さんの作品である。だから本ブログで自分が紹介したものの中…

関 幸彦『刀伊の入寇』(中公新書)

せんせいが『戦争の日本古代史』を推してきたということで、こちらはこれを紹介。関 幸彦『刀伊の入寇』。 藤原道長政権下の1019年、対馬・壱岐と北九州沿岸が女真族によって襲われる。この平安時代最大の対外危機ともいえる「刀伊の入寇」について、そ…

倉本一宏『戦争の日本古代史』(講談社現代新書)

藤原道長関係で倉本先生の本を先日検索したからだろう、この本がおすすめリストの中に並べられたので、少し古い本(2017年)だがタイトルにつられて購入。 買ってよかった。 中学生のころ、白村江の戦いで倭が大敗したのに、なぜ戦争指導者たちはクビになら…

外山薫『君の背中に見た夢は』(KADOKAWA)

大先生、ごめんなさい、週末いろいろとあって、PCの前に座れませんでした。 == 今週読んだ中で澱のように残っているのが、この本である。それはいい意味でというよりも、後味の悪さのせいだと思う。 お受験小説といえば、城山三郎の『素直な戦士たち』が思…

神野 潔『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)

・・・せんせい大丈夫~? --- 4月からの朝ドラ「虎に翼」。先日、メインビジュアルが公開された。法服を身にまとった主人公(しかも戦前の法服!)。これだけでもテンションが上がる。 さて、このドラマの主人公にはモデルがいる。三淵嘉子(みぶち・よし…

繁田信一編『御堂関白記』(角川ソフィア文庫)

紫式部「紫式部日記」、道綱母「蜻蛉日記」、行成「権記」、実資「小右記」と読んできた日記シリーズ。いよいよラスボス、藤原道長「御堂関白記」の登場である。さすがに分量が多いので、これも「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」シリーズで読むことに…

吉川祐介『限界分譲地』(朝日新書)

大先生が平安時代にはまっていらっしゃいますね、私も大河ドラマの方は楽しく拝見させていただいておりますが、あちこちにオマージュが埋め込まれていて、知識があるとなしとでは大違い(なくてさみしい)。 今週の新書は「限界分譲地」。「限界ニュータウン…

榎村寛之『謎の平安前期』(中公新書)

どっぷりとハマった平安時代という「沼」。しばらくは抜け出せそうにない。今回読んだのはこちら。榎村寛之『謎の平安前期』。 約400年にわたる平安時代。このうち前期に相当する約200年について論じた本である。 本書に「知られざる平安前期」ともあ…

春増翔太『ルポ 歌舞伎町の路上売春 それでも「立ちんぼ」を続ける彼女たち』(ちくま新書)

毎日新聞社会部記者による良質のルポ。新聞記者の本領発揮というところだろう。ただしこういう記事は、おそらく金にはならないだろう、とも思う。私たちは、いつまでこういう記者によるこのような文章を読めるのだろうか。 本書の主役は4人。ユズ・モモ・レ…

小町谷照彦『藤原公任 天下無双の歌人』(角川ソフィア文庫)

道綱母「蜻蛉日記」、行成「権記」、実資「小右記」ときたので、次は藤原公任である。といっても公任は著名な日記は残していないし、「和漢朗詠集」は選者にすぎない・・・などと思っていたら、手頃な評伝が出ていたので読んでみることに。小町谷照彦『藤原…

宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)

はい、続編です。買って読んだ後、近所の書店でサイン本を発見した。なんか悔しい。 「膳所から世界へ!」成瀬あかり女史、今回も縦横無尽の大活躍。 近所のスーパーでレジバイトしながら、小学生と街をパトロール。受験を終えて応募したびわこ観光大使に就…

倉本一宏編『小右記』(角川ソフィア文庫)

「あれ」って何だろう・・・あれの続編かな・・・せんせいのレビューを楽しみにしています。 --- 藤原実資については「是々非々で押し通す、ちょっとクセの強い男」というイメージを勝手に抱いていた。大河ドラマ「光る君へ」では誰が演じるのだろうかと思っ…

本多真隆『「家庭」の誕生』(ちくま新書)

大先生の次の1冊はきっと「あれ」だろうと思っていたのですが・・・。次が「あれ」でなかったら、私が書かせていただこうかな、と。 「こども庁」が自民党保守派(というか宗教団体系と呼ぶべきだろう)の反発によって「こども家庭庁」として発足したのが昨…

倉本一宏編『権記』(角川ソフィア文庫)

「光る君へ」には藤原行成も出てくる。能書家で「三蹟」の一人であり、また日記「権記」の著者でもある。 この「権記」については、「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」シリーズで出ているので、読んでみることに。編者は当ブログでもおなじみの倉本一…

村木嵐『まいまいつぶろ』(幻冬舎)

御所グラウンドではうちのチビが毎週野球やってますが、まだ沢村栄治には会ったことないみたいです。 さて。 徳川将軍15人を挙げていくとして、家康、家光、吉宗、慶喜くらいは学校の教科書に出てくるし、秀忠とか綱吉とか、あと家斉くらいはまぁ出てくると…

高山一実『トラペジウム』(角川文庫)

万城目学さんが直木賞受賞!おめでとうございます!!受賞発表までの間、森見登美彦さん・上田誠さん・綿矢りささんと4人で脱出ゲームやUNOをして過ごしたというエピソードが何だかほっこりします。京都すごい。 ---乃木坂46の1期生・高山一実が小説を書…

倉本一宏『藤原氏 権力中枢の一族』(中公新書)『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書)

忌野清志郎の歌に、北朝鮮で「お~い、キム~」と呼ぶと、みんなが「なんだ~い」と答える、というのがあるのだが、平安京でもみんな藤原さんなわけで、とにかく誰が誰だかわからなくなる。系図を見るとさらにわからなくなって、天皇家の系図と重ねるともう…

川村裕子訳注『新版 蜻蛉日記I・II』(角川ソフィア文庫)

大河ドラマ『光る君へ』には、藤原道綱母が出てくるという。「蜻蛉日記」の作者である。興味を持ったので、現代語訳で読んでみることにした。 まずはお約束の「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」シリーズから角川書店編『蜻蛉日記』で頭づくり。毎度毎…

町田康『口訳古事記』(講談社)

「世の中ってのはどうやってできているのか、考えてみたとき、神さんがつくらはったと思ったら、けっこう楽しいんやわ」「そやな」「で、日本の神さんがどんな神さんやったかっていうと、はっきり言うてサイコパスなんやわ」「そうなんや」「そもそもやな、…

『太平記(上)(下)』(亀田俊和訳・光文社古典新訳文庫)

年末年始はこれを読んで過ごした。亀田俊和訳『太平記(上)(下)』。 訳者の亀田氏は、国文学者ではなく、バリバリの歴史学者である(ブログを見返してみたら、せんせいが何度か言及されていた。)。『観応の擾乱』(中公新書)は面白かったが、そういえば…