羽田圭介『滅私』(新潮社)

 ミニマミストだとか断捨離とかよく耳にするが、この小説の主人公は、そんなミニマミストたちである。持たない暮らしのインフルエンサーとして収入を得ていたり、(持たない暮らしという欲望を駆り立てて)ブランドを立ち上げてビジネスしていたり、持たない暮らしを突き詰めすぎてこれ以上捨てられなくなっておかしくなってしまったり、ミニマミストにもいろいろとある。

 作者は文中で主人公に語らせる。「捨て思考」になると、自分にとって大事なことの意思決定能力は高まるが、それ以外の曖昧なもの、混沌、難しいものが苦手となり、どちらかに振り切ったもの、わかりやすいものしか受け付けなくなる、と。
 たしかにそうだ。

 結局主人公たちは、それぞれの事情から、ミニマムライフから離れていく。そういえば、こんまりさんも最近は片付けから離れているんだったっけ。

 

 主人公の立ち上げたブランドはMUJOUという。
 しかし、諸行無常諸法無我、世間は虚仮なりという世界観は、ミニマミストが発見するよりもはるかに昔から、長い長い年月を超えてたたき上げられて、確固たる思想の体系として厳然と存在している。
 そう思うと、浅い、んだよな、ミニマムライフの哲学って。

滅私

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(こ)