宮下英樹『神聖ローマ帝国 三十年戦争』を読んで神聖ローマ帝国に興味を持ったのだが、なかなか手頃な本が見つからない。どうしたものかと思っていたところ、この4月に格好の本が出版された。山本文彦『神聖ローマ帝国』。
オットー1世の戴冠から850年、カール大帝まで遡れば1000年に及ぶ神聖ローマ帝国の通史である。副題は「『弱体なる大国』の実像」。
かつてヴォルテールが「神聖でもなければ、ローマ的でもなく、そもそも帝国ではない」と評したように、歴史的評価は必ずしも良かったわけではない。他方、近年のEU統合が進展する中で、共通の歴史的経験として神聖ローマ帝国が取り上げられることもあるという。
本書はこの国の歴史をいくつかの視点から俯瞰していくが、中でもやはり「皇帝(皇帝権)とローマ教皇(教皇権)の関係」という視点からの分析は興味深い。この二つの焦点は、常に緊張関係にあった。
その後、皇帝位はハプスブルク家がほぼ独占し、16世紀に最盛期を迎えるものの、宗教対立と三十年戦争を経て、ウェストファリア体制へと至る。やがてオーストリアとブランデンブルク=プロイセンの二強体制となり、最後は1806年8月6日、皇帝フランツ2世が自ら皇帝位の放棄を宣言。神聖ローマ帝国の歴史に終止符が打たれた瞬間である。
世界史の授業で初めて出てきたとき、何だこの国は、と思ったことを覚えている。「神聖」とか付いてたり、おおむねドイツなのに「ローマ」と名乗っていたり。「選帝侯」という存在も不思議であった。
(ひ)