平田陽一郎『隋-「流星王朝」の光芒』(中公新書)

映画「キリエのうた」(岩井俊二監督)を見に行った。
どこを切り取っても「絵」になる研ぎ澄まされた映像美と、心震わせるストーリー。
キャストの中では松村北斗が秀逸。広瀬すずもクセのある役をうまく演じていた。

ところで原作小説の表紙、抽象画か何かだと思っていたのだけれど、実は「地面に落ちた青い花束」だったんだな…。このシーンを表紙に持ってくるか…。

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小学校で習う歴史で初めて「外交」というものを意識するのは、確か遣隋使だったように思うのだが、この隋という国、ご承知のとおりわずか2代で滅んでいる。この「流星王朝」についての全てを詰め込んだ本がこちら。平田陽一郎『隋-「流星王朝」の光芒』。

三国志時代から魏晋南北朝時代を経て、北朝から突如姿を表した「隋」。南朝の陳も滅ぼして中華を統一した。本書の前半部分は、その統一の過程について、初代皇帝・楊堅(文帝)を中心に丁寧に説明する。

そして後半部分は、二代皇帝・楊広(煬帝)の即位からその滅亡まで。読み物として面白いのは、実はこちらの方である。

兄弟殺しだけでなく、親(文帝)殺しの疑いすらある楊広。即位後は建国の功臣を次々と誅殺。大運河を築き、親征を行い、帝国を拡大したが、高句麗遠征に失敗して動乱を招いた。

大小さまざまな逸話のある楊広だが、一方で人間くささも感じられる。

煬帝」というのは唐による諡だが、このうち「煬」とは「礼を行わず、民を虐げる」という意味だという。「煬帝」というのは、言ってみれば唐が貼ったレッテルである(278頁)。日本でも古くから「ようてい」ではなく「ようだい」と読み習わしているが、これも同趣旨とのこと。

果たして煬帝は、伝えられているような暴君であったかどうか。本書の終章のタイトルが「煬帝のためのレクイエム」となっているのも興味深い。

平田陽一郎『隋-「流星王朝」の光芒』(中公新書


(ひ)