福間良明『司馬遼太郎の時代』(中公新書)

司馬遼太郎は同時代性の高い作家だと思っていたが、既にその死去(1996年)から四半世紀が過ぎ、ついに中公新書で取り上げられるまでになった。福間良明司馬遼太郎の時代』。

本書では、司馬遼太郎の生涯をめぐりつつ、その作品がなぜ、どのように人々に受容されていったのかを論じていく。

本書で繰り返し挙げられるキーワードは「傍流」「二流」である。司馬遼太郎の半生は、学生生活でも、新聞記者生活でも「傍流」「二流」を歩んでいたとする。著者は言う。「このことは、優等生的なものへの燻ぶった違和感を、司馬に植え付けることとなった」と(240頁)。

そして、司馬作品が受容された状況も「傍流」「二流」と無縁ではなく、その作品を多く愛読したのは企業・役所勤めのサラリーマンやビジネスマンたちであり、文学や歴史学の「正統」とは異なる場で受容されていたという。

さらに、本書は、司馬作品が昭和50年代以降に文庫化され、通勤時に読むサラリーマン読者を持続的に生み出したこと、司馬作品には多数の「余談」がちりばめられ、一種の教養として読み込まれたこと、読者は司馬作品に「組織人としての生き方」を重ね合わせたことなどをつぶさに指摘していく。

2022年6月現在、『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『街道をゆく』『翔ぶが如く』の累計発行部数はそれぞれ2477万5500部、1976万6500部、1219万2500部、1202万4000部。複数巻があるとはいえ、とんでもない読まれ方をした作家である。これほどの作家は、今後しばらくは出てこないのかもしれない。

福間良明司馬遼太郎の時代』(中公新書


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