年末年始はこれを読んで過ごした。亀田俊和訳『太平記(上)(下)』。
訳者の亀田氏は、国文学者ではなく、バリバリの歴史学者である(ブログを見返してみたら、せんせいが何度か言及されていた。)。『観応の擾乱』(中公新書)は面白かったが、そういえば当ブログでは未紹介であった。
全40巻のうち、訳者が90話を厳選。訳文は、ご本人も書かれているように「読みやすさ・分かりやすさ」優先である。カタカナ語の使用もいとわない。「流行していたファッション」「ストライキを起こし」「古くから伝わるジンクス」「主力メンバー」等々。おかげで、まさに今の時代における生き生きとした文章となっている。
選ばれた話も興味深いものが多い。護良親王は寺の経櫃の中に隠れて敵をやりすごす(昔の漫画にもあった)。塩冶判官の妻に高師直が横恋慕する(後に「仮名手本忠臣蔵」で名前を拝借)。特に、足利尊氏が亡くなった後の時代は、知らないことも多く、新鮮であった。なお、義詮がかなりの暗愚に描かれているが、これは史実かどうか…。
そして巻末の解説。「太平記」成立の経緯や、後の世に与えた影響、そして明治以降の「南朝正統史観」の実像等々。もちろん「太平記」と史実の相違にも言及されている。様々な情報がぎゅっと凝縮されていて、これだけでも十分読む価値がある。
(ひ)