酒井順子『うまれることば、しぬことば』(集英社)

ジャケ買いという言葉があるが、この本は「目次買い」というべきであろう。目次に惹かれて読んでみた。酒井順子『うまれることば、しぬことば』。

新しく使われるようになった言葉。他方で、使われなくなっていった言葉。本書は、そんな言葉をテーマにしたエッセイである。

「『自分らしさ』に疲弊して」、「コロナとの『戦い』」、「『生きづらさ』のわかりづらさ」、「『ハラスメント』という黒船」――。酒井順子さんが言葉をテーマに縦横無尽に語りつくす。

一つ一つのテーマの掘り下げ方がまた、面白い。

どれでもよいのだけれど、例えば「『気づき』をもらいました」という章。「色々なことに気づいて、感動した」ではなく「気づきをもらった」という言い回しに今風を感じるという著者は、2001年の小泉首相の「痛みに耐えてよく頑張った。感動した!」の頃からの変化を指摘し、今ならきっと「感動をもらった!」と言うのだろうと想像した後、感情を他者から「もらった」ことにしたいとの傾向の源泉は東日本大震災に行きつくのではないかと考える。「勇気を与えたい」とのアスリートらの発言と、「感動をありがとう」というレスポンス。そこから著者は、贈答行為を極めて大切にするという国民性に触れ、様々な例を挙げた後、最後は「おいしみ」「ヤバみ」「わかりみが深い」などという“名詞化された感情”を使って感情との距離を置く若者像を描く。

これはもう、芸である。一流の芸である。

酒井順子『うまれることば、しぬことば』(集英社


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