麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)

麻布競馬場の作品をTwitterで最初に読んだ時、衝撃が走った。1ツイート140字という制約を逆に生かして、テンポの良い言葉とキャッチーな固有名詞をちりばめながら読ませていくショートストーリー。圧倒的なリアリティと戯画的なまでのフィクションのバランスの上に成り立つこの文学は、正直、驚きであった。

・・・と思っていたら、なんと短編集という形で本になっていた。麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』。

冒頭の「3年4組のみんなへ」から秀逸。語り手である「先生」の鬱屈した人生と、これを踏まえた上での生徒たちへの挨拶。これはもう、国語の教科書に載せるべきではないか(いや載らないけれど)。

続く「30まで独身だったら結婚しよ」も、心の底をえぐるような話。高価なものと、そうでないもの。現代というすさまじいまでのマウント社会における、幸せの意味とは。

その後も濃密な話が続くが(似ている話も少なくない)、全編を通して貫かれているのは、あまりに肥大化した自我と、対照的にちっぽけで残酷な現実、そして自虐である。共感できるかどうか、人を選ぶ作品ではあるものの、僕の心にはエグいくらいに突き刺さった。

麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』


(ひ)