柳瀬博一『親父の納棺』(幻冬舎)

コロナ禍の中、著者の父が亡くなった。見舞いに行くこともできず、スマホ越しの声が最後となった。

しかし、それで終わらない。自宅に戻ってきた父を、リモート勤務をしていた息子たちが迎え入れ、5日間ともに過ごすことになった。コロナだからできなかったことはたくさんあるが、コロナだからできたこともある。

葬儀社の「すずさん」(仮名)に促され、息子たちは父の着替えを手伝う。納棺の仕事を手伝ったのではない。父と対話しながら、スーツに着替えさせ、ネクタイを締め、息子として父の旅立ちを手伝ったのだ。死体に触る、のではなく、父に触れる。そこにいる父は、死んではいない。その時間は、死者へのケアの時間であるとともに、残された者への死者からのケアの時間でもあった。

父との濃厚な1時間半が、碩学の筆者ならではの描写によって、生き生きと描かれる。

いい本だった。

(こ)