斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)

 「人新世」とは、人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与える地質年代のことである。肥大化した人類の活動は、気候変動をもたらし、結果的に人類の文明は破滅へと向かわざるを得ない。資本主義はこの流れを加速させるだけであり、資本主義の枠内でこの問題を解決することは不可能である(SDGsは大衆のアヘンである!)。資本主義について徹底的に冷徹な視点と天才的な洞察を与えたマルクスは、資本主義が崩壊した先にコミュニズムを見通していたが、実はマルクスが見ていたコミュニズムとは、脱成長経済であった、というのが筆者の主張である。
 その背景にあるのが、新MEGA(マルクス・エンゲルス全集)の編纂プロジェクトであり、発表された文章だけでなく、膨大な研究ノートやメモまで含んだ文字通りの「全集」を作り上げる過程で見えてきたものは、後期から晩年にかけての起きたマルクスの思想の大転換であり、だからこそ『資本論』は第1巻のあと刊行が遅れに遅れ、結局マルクスの存命中には出すことができなかったのである。20世紀のスターリン毛沢東社会主義国家建設が失敗した理由もここにある。そして持続可能で公正な脱成長コミュニズムへの跳躍は、市民が連帯し動き出すところから始まるのである。

 遅ればせながら読みました。
 まだ理解できた自信はないのだけれど、縄文時代は実は弥生時代よりも豊かだった、という話と多くが重なった。ただし、縄文人生活様式によって支えられる人口は限られていた。ここまでふくれあがった世界人口は、環境と未来からの収奪が可能としたものであり、筆者の描く脱成長経済によって支えることが可能な人口はいかほどか。何人が生き残れるのか。その答えははっきりとは書かれていなかったように思われる。

 33歳の俊英の思索は続く。
 2021年新書大賞。

人新世の「資本論」 (集英社新書)

人新世の「資本論」 (集英社新書)

 

 (こ)