ジョー・オダネル『トランクの中の日本』(小学館)

ローマ教皇フランシスコが来日された。明日、長崎・広島と被爆地を回り、核廃絶と平和を求めるメッセージを世界に向けて発信されることだろう。

教皇は一昨年の末、「焼き場に立つ少年」の写真に「戦争がもたらすもの」というメッセージを添えて、配布された(この写真は、美智子上皇后も10年ほど前に取り上げられたことがある)。

ジョー・オダネルという米軍兵士が撮った写真である。
彼は終戦直後の長崎にやってきて、占領のようすを記録する任務に当たっていた。私的な写真は禁止されていたが、彼は禁を犯して何枚かの写真を残し、それをトランクの中に封印して、家族にも決して明けないように厳命していた。

長い年月の末、彼はその禁を自ら破って写真を公開し、核廃絶の声を挙げた。しかし、写真展は退役軍人会の反対に遭って中止され、オダネルは裏切り者扱いされる。妻も彼のもとから去って行った。

今、彼の写真が世界をかけめぐっている。弟の亡骸を背負い、唇を固く固く噛みしめ、焼き場で順番待ちをしている少年。その少年が誰なのかは、いまだわかっていない。

トランクの中の日本

トランクの中の日本

 

 (こ)