遠藤周作『おバカさん』(小学館 P+D BOOKS)

 長崎・外海の遠藤周作文学館で、企画展「〝愛〟とは棄てないことーー遠藤周作〝愛〟のメッセージ」が開かれている(2018年7月~2020年6月)。

第1部では、遠藤作品の4人の登場人物を通じて、遠藤のメッセージを読み解いている。第2部では家族の愛をテーマに、作家・遠藤周作の人生に家族が与えた影響を紹介している。

私は愛とは「棄てないこと」だと思っています。
愛する対象が―人間であれ、ものであれ―
どんなにみにくく、気にいらなくなっても、
これを棄てないこと。

それが愛のはじまりなのです。
――『愛と人生をめぐる断層』(パンフレットより)

さて、その第1部では、『おバカさん』のガストン、『わたしが・棄てた・女』の森田ミツ、『女の一生 第2部』のコルベ神父、『深い河』の大津の4人が、それぞれモデルとなったとされる実在の人物の紹介とともに展示されていた。

『おバカさん』は1959年の作品で、高度経済成長が始まったばかりの日本の暗部も描かれているし、日本がまだ敗戦による自信喪失から立ち直っていない時代でもある。そうした中でガストンという戦勝国フランスからやってきた「異人さん」は、大きな体を震わせながら、なすすべもなくただ泣いてばかりいる。誰もが最初は彼のことをバカにするのだが、しかし次第に彼に吸い寄せられていく。

 はじめて巴絵はこの人生の中でバカとおバカさんという二つの言葉がどういうふうに違うのかわかったような気がした。素直に他人を愛し、素直にどんな人をも信じ、だまされても、裏切られてもその信頼や愛情の灯をまもり続けて行く人間は、今の世の中ではバカにみえるかもしれぬ。
 だが彼はバカではない・・・おバカさんなのだ。人生に自分のともした小さな光を、いつまでもたやすまいとするおバカさんなのだ。巴絵ははじめてそう考えたのである。

ガストンのモデルとなったのはネラン神父さんという人で、遠藤のフランス留学を支援したり、歌舞伎町にスナックを開いてバーテンダーとして多くの人の話に耳を傾けてきた方なんだそうだ。

なお、小学館のP+D BOOKSというレーベルは、「後世に受け継がれるべき名作でアリながら、現在入手困難となっている作品を、B6版ペーパーバック書籍と電子書籍で、同時かつ同価格にて発売・発信する、小学館のまったく新しいスタイルのブックレーベル」だとのこと。正直言って、ペーパーバックで日本語小説を読むのは慣れておらず、手のひらの中でゴワゴワしてどうも落ち着かなかった。中古の文庫本にすればよかった。

おバカさん (P+D BOOKS)

おバカさん (P+D BOOKS)