竹宮惠子『少年の名はジルベール』(小学館文庫)

久しぶりに丸善に行ったら、彼と目が合ったので、一緒に店を出ることにした。
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 本書は、京都精華大学教授として教育者という立場から後進の指導に携わることになった作者の昔語りである。少女マンガ版「まんが道」といってもいいだろう。

 20歳の時に上京して2軒長屋でルームシェアしながら、少年愛をテーマにした『風と木の詩』を描きたくて描きたくて、それでもそれを描くことができない葛藤と闘う日々のことが語られる。湿っぽくなく、今にして思い返せばすべてが青春の1ページなのだろう。読み進めながら、情景が次々と頭の中に画像として浮かび上がってきた。この本は、書かれたのではなく描かれたのだと思う。

 竹宮惠子萩尾望都が暮らす長屋はやがて「大泉サロン」と呼ばれて若い少女マンガ家たちの集う空間となった。
 少女マンガは詳しくなくて、おふたりのお名前は存じ上げてはいたが、ふたりが若いころ2年間一つ屋根の下で暮らしていて「大泉サロン」として伝説になっているとは露知らず、この2人に山岸凉子まで加わって40日ほどヨーロッパ旅行をしたとか、そんなことがあって、彼女たちが少女マンガの世界に革命を起こし、少女マンガの地位を確たるものとして押し上げたということについては、すみません、大変不勉強でありました。

 なお「大泉サロン」はわずか2年で解散となり、萩尾さんはこのことについて沈黙を守っているらしい。いろんなことがあったんだろう。「まんが道」みたいにドラマ化してほしいと思ったのだが、難しいだろうなぁ。

 (こ)