またまた古典。池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08『日本霊異記・今昔物語・宇治拾遺物語・発心集』。
今昔物語は故・福永武彦訳だが,日本霊異記と発心集は伊藤比呂美の新訳であり,また宇治拾遺物語は町田康の新訳である。・・・町田康? 大丈夫か・・・?
いずれも説話集。さすがに全訳ではなく,合計105編を抜粋。個人的に読んだことがあるのは今昔物語と宇治拾遺物語のみで(もちろん抄訳),日本霊異記と発心集は初見である。
平安時代初期に成立したとされる日本最古の仏教説話集。短くて,ふわふわとした不思議な話が多い印象。
・今昔物語(福永武彦訳)
平安時代末期に成立したとされる,日本最大の説話集。日本霊異記よりも「物語」っぽさが増えた。福永武彦の訳は,今なお色褪せず,美しい。
鎌倉時代初期に成立したとされる説話集。前述したとおり,町田康の手による現代語訳である。
・・・いや,訳文,自由すぎでしょ(笑)。
徹頭徹尾,おかしみのある言い回し。原文には絶対に存在していなかったよね,という補足説明の嵐。これはもう,宇治拾遺物語の「現代語訳」ではなく,音楽でいう「カバー」の域ではなかろうか。
どの話でもよいのだけれど,たとえば「道命が和泉式部の家で経を読んだら五条の道祖神が聴きに来た」(第1話)における僧・道命の説明はこんな感じ。
「業界でよいポジションについていた。そのうえ,声がよく,この人が経を読むと,実に素晴らしい感じで響いた。というと,ああそうなの。よかったじゃん,やったじゃん,程度に思うかもしれないが,そんなものではなかった。」
また,和泉式部の説明はこんな感じ。
「おそらく彼女はその頃,生きていた女の中で最高にいい女だった。そして,ただいい女というだけではなく,そそる女だった。色気のある女だったのである。それもただの色気ではなく,壮絶なほどの色気で,彼女を見た男は貴賤を問わず頭がおかしくなり,また,ムチャクチャになった。」
「ムチャクチャ」って・・(笑)。ぜひ原文を読んでみたい。そして読み比べてみたい。
この町田康訳については他にもいろいろあるのだけれど,きりがないのでこの辺にしておく。とにかく,面白かった。
・発心集(池田比呂美訳)
鎌倉時代初期の仏教説話集。編者は鴨長明とされる。ありがたや,ありがたや。
日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集08)
- 発売日: 2015/09/11
- メディア: 単行本
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