『墨子』(金谷治訳・中公クラシックス)


先日,「次にくるマンガ大賞2021」が発表されました!
「コミックス部門」と「Webマンガ部門」とがあるのですが,なんと赤坂アカ×横槍メンゴ『推しの子』がコミックス部門の第1位に,松本直也『怪獣8号』がWebマンガ部門の第1位に輝きました!
いずれも当ウェブサイトで紹介した作品です! おめでとうございます!
・・・記念に写真撮っとこう。

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赤坂アカ×横槍メンゴ『推しの子』

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松本直也『怪獣8号』

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さて。

今年1月に逝去された半藤一利さん。妻の末利子さんによると,亡くなる日の明け方ころ,「墨子を読みなさい。」とおっしゃっていたという。

墨子』。中国の諸子百家墨家の思想を伝える書物である。「非攻」「兼愛」という言葉とともに授業で習った記憶はあるし,酒見賢一墨攻』も読んだのだけれど,『墨子』自体をちゃんと読んだことはなかった。

まずは「ビギナーズ・クラシックス」シリーズの草野友子『墨子』(角川ソフィア文庫)で頭づくりをしてから,中公クラシックス版(金谷治訳)にチャレンジ。

読んでみて思ったのだけれど,一つ一つの論説が長く,なおかつ丁寧である。

例えば「非攻」。侵略戦争の否定である。ある人が他人の果樹園に入って桃やすももを盗む行為は「人を虧(か)きて自ら利する」(他人の利を欠いて自分の利とする)から非難されるとし,これを,他人の家畜を盗んだ場合,他人を殺した場合などと広げていき,結局,「人を虧(か)きて自ら利する」ことが不正義であるとする。そして,1人を殺せば不義とされるのであり,この道理からすれば10人を殺せば不義は10倍,100人を殺せば不義は100倍となるはずなのに,他国を攻め込むことを正義とするのはおかしい・・・などと『墨子』はいう。

「兼愛」も同様である。病気の治療に際してはその原因を知らなければならないのと同様に,天下を収めるためには乱の原因を知らなければならないとした上,身近な話から徐々に広げていき,最後には,天下の乱とはすべて「諸侯は各(おのおの)その国を愛し,異国を愛さず,ゆえに異国を攻めてもってその国を利す」ことから生じるものだとする。

なお,墨家は決して非戦論者の集団というわけではなく,むしろ,侵略戦争阻止のため,自ら戦闘集団を組織して,弱小国の救援に奔走していたという。現に『墨子』の中には,様々な軍事技術について論じられた篇も多い。その意味で,『墨子』とは,かなり実践的な書物でもあった。

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墨子』(金谷治訳・中公クラシックス


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