宇佐美まこと『展望塔のラプンツェル』(光文社)

神奈川県多摩川市。海岸沿いの工業地帯は、日雇い労働者とヤクザとコリアンとフィリピーナと、行き場のない子どもたちが暮らす、暴力が支配する街である。
市の北部は瀟洒な住宅街で、そこの住人たちはこのことを知らない、あるいは見ようとしない。 

2組の「家族」の物語。17歳のカイとナギサと、5歳のハレ。そして、不妊治療に苦しむ落合夫妻。望んでも子どもを授からない夫婦の前で、生を受けた子どもたちは貧困の中で捨てられ、親から虐待されている。

現実に繰り返される児童虐待。2015年の川崎市中1男子生徒殺人事件と寝屋川中1男女生徒殺人事件。カイとナギサとハレは、この子たちだ。

フィクションであることはわかっている。それでも、心が痛み続けた。つらかった。でもやっぱり、目を背けてはいけない。

展望塔のラプンツェル

展望塔のラプンツェル

 

 (こ)