塩田武士『罪の声』(講談社)

f:id:raku-napo:20171202100843j:plain

小学生のころ,「グリコ・森永事件」というのがあった。

それまでは,事件というのは,あるいは事件報道というのは,ここではないどこかで発生して,そして遠い東京の新聞社やテレビ局を通して伝えられるものだった。政治報道も経済報道も同じだった。テレビの向こう側の世界と,こちら側の世界というのは,決して交錯することがなかった。

「グリコ・森永事件」はそうではなかった。事件は関西の,さらにいえば自分の生活圏で発生した。事件とか犯罪とか,そのようなものを身近に感じた最初の出来事であった。

塩田武士の『罪の声』は,「グリコ・森永事件」をテーマにした小説である。

カセットテープに吹き込まれた子供の声。ということは,吹き込んだ子供が実在するということであり,その子供は現在もどこかで生活しているのかもしれない--。あくまでも小説という形式を取りつつも,本作品は,そのような事実を読者に突きつけ,30年前の出来事と現在の世界とを結びつける。

現実と虚構とを交錯させる,重厚な作品である。

罪の声

罪の声

(ひ)