岡崎琢磨『鏡の国』(PHP研究所)

これもよく見かけるので、どんなのかなと思って読んでみた。岡崎琢磨『鏡の国』。

亡き大御所ミステリー作家・室見響子の姪である「私」。遺稿となる私小説『鏡の国』を前に、担当編集者はこう言った。「『鏡の国』には、削除されたエピソードがあると思います。」。「私」はその遺稿を読み進んでいく――。

冒頭の「西暦2063年8月 神奈川県鎌倉市」という見出しにまず驚かされるが、本作で特徴的なのはその構成である。小説の中にさらに小説があるという入れ子形式の作品であり、しかも「中の小説」の割合がおそらく9割を超えている。思い切った作品でもある。

内容はミステリ仕立て。オビの宣伝文句「反転、反転、また反転!」はやや盛りすぎの感があるが、それでも終盤の展開はさすがと思わせる。

そのミステリ構造以上に印象に残ったのが、本作の人間関係であり、特に、響(ひびき)と郷音(さとね)という二人の女性の友情である。互いに複雑な思いを抱えながらも、相手を意識せざるを得ない心情を、本作品は丁寧に描いている。

岡崎琢磨『鏡の国』(PHP研究所


(ひ)