一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社)

評判につられて読んでみたところ,想像以上の作品だった。一穂ミチ『スモールワールズ』。

6編からなる短編集なのだが,第1話「ネオンテトラからして秀逸。夫婦円満を装う妻と,家庭に恵まれない少年。水槽の中のネオンテトラ。物語は終盤,思いがけない方向へと進む。

第2話「魔王の帰還」は,一転してコミカルな作品。「姉」の奔放なキャラが心地よい。それでも何かありそうで・・・。

・・・などなど,語り始めると終わらない短編集である。個人的には第4話「花うた」が心に刺さった。「短編集の第4話は変化球」の格言(再度言いますが,個人の感想です)どおり,往復書簡の形式を取った作品なのだけれど,これが予想外の展開となり・・・(涙)

悲哀・煩悶,日常に潜む苦悩,そしてささやかな喜び。人の心を丁寧に描きながら,話によってはちょっとしたミステリ要素も潜ませるなど,エンタメ小説としての面白さも備えている。

とんでもない才能の持ち主がセンターコートに現れた。


(ひ)