ちょうど1年前の2023年8月31日、池袋でそごう・西武労働組合がストライキを起こしてデモ行進をした。
本書は、寺岡執行委員長が当時を振り返った記録である。
そごうと西武という2つの百貨店が、バブル崩壊を経て、生き残りをかけて苦しみながら何度も生まれ変わろうとするのだが、いくら単店舗では黒字を出しても、絶望的に膨れ上がった有利子負債が経営を圧迫する。幾度となく経営者が変わり、ずるずると会社が切り売りされて小さくなっていく。基幹店が縮小すれば周辺の店舗の品ぞろえが悪くなり顧客が離れ区という悪循環である。バブル崩壊直後に西武に入社した著者は、右肩下がりの会社の中にあって、労働組合活動を通して、文化としての百貨店とそこで働く人たちを守ろうと動き続ける。撤退戦に次ぐ撤退戦にあたり、多くの人の支援を受けながら、交渉は続けられる。
もちろんどうしても著者の主観が入ること避けられないとは思うが、それにしても、しんどいときにこそ人の本性が現れるとはよく言ったものだ。
交渉相手となる7&iの井阪社長はセブン出身で、セブンには労組がないらしい。本人はちゃんとやっていたつもりなのかもしれないが、なるほど、労使交渉というものを知らないからああなったのか。そしてお題目のように唱える「選択と集中」でそごう西武は立ち直るどころかどんどん勢いを失っていく。
百貨店出身の林元社長は、最後の最後に井阪氏に反旗を翻して解任される。2億円のストックオプションも放棄したらしい。
2000億円出資したヨドバシが池袋の一等地に出店したいと思うのは当然だし、ファンドも利益を上げるために徹底的にドライなのもわかるけれど、とても応援する気にはなれない。また、西村あさひに対する河合弁護士の法廷戦術は見事だった。
自分も小さいながらの職場の労働組合の役員として、何度も理事会と交渉を重ねてきた。著者の気持ちもしんどさも少しはわかる気がする。
先日、京都の某私学がストライキを打った。自分も応援というか一緒に校門前のひとりになりに行った。労働組合運動とは、つながることだからである。
そういう意味では、ストライキを打つところまで追い詰められたそごう・西武労組を積極的に支援しなかったUAゼンセンは、何考えてんだと思うし、そんなゼンセン傘下の労組がストを打ったからこそインパクトも大きかったのだろう。
会社は誰のためか、働くとはどういうことか、決断するとはどういうことか。いろいろと考えさせられる本であった。
そしてそのスピンアウトとして、西武ライオンズのユニフォームを着た女子高生が、閉店する西武大津店に現れることになる・・・。
(こ)