今年の夏はこれを読んで過ごした。塩野七生『ギリシア人の物語』。
「塩野七生・最後の歴史長編」と銘打ったこの作品。古代ギリシアの興亡を全4巻で駆け抜ける。
第1巻は「民主政のはじまり」。古代ギリシアのアテネで民主政はいかに生まれ、進展していったのかを、ソロン、ペイシストラトス、クレイステネス、テミストクレスと順をおって見ていく。
この巻の山場は第2次ペルシア戦役。圧倒的多数のペルシア軍を相手に、海ではサラミス、陸ではプラタイアにおいて、アテネやスパルタからなるギリシア軍がこれを撃破する。
第2巻は「民主政の成熟と崩壊」。アテネはペリクレスの手腕によってエーゲ海の盟主となる。しかし、その絶頂期は長くは続かず、やがてアテネはスパルタとの間で泥沼のペロポネソス戦役へと突入していく。「アテネ人は、自分たち自身に敗れたのである。」(631頁)との言葉が重い。
第3巻は「都市国家ギリシアの終焉」。ギリシア都市国家群の覇権はアテネからスパルタへ、そしてテーベへと移っていくが、その間、辺境の地・マケドニアではフィリッポスが軍事改革を成し遂げた。
そして、第4巻は「新しき力」。主人公はもちろん、アレクサンドロスである。このとんでもないヒーローを前に、塩野さんの筆も走る走る。
この第4巻のラストには「十七歳の夏――読者に」と題する一節が設けられている。『ローマ人の物語』、『ローマ亡き後の地中海世界』、『海の都の物語』、『十字軍物語』、『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』、そしてこの『ギリシア人の物語』。一連の歴史エッセイを読んできた読者に対する、塩野さんからの最後のメッセージである。こういうの、ちょっとウルっと来る。
もう歴史長編エッセイをお書きにならないのだと思うと、感慨深いものがある。今までありがとうございました。
(ひ)