新海誠原作・あきさかあさひ著『小説 星を追う子ども』(角川文庫)

新海誠監督、4作目の劇場用アニメーションのノベライズ版である。『小説 星を追う子ども』。

母と2人暮らしの少女・アスナ。ある日、「アガルタ」から来たという少年・シュンと出会うが――。

前作『秒速5センチメートル』から4年。これまでにない数のスタッフを投入し、新海作品の過去最大規模となる全国63館で公開されたこのファンタジー大作は、皮肉なことに興行的には初の「赤字」となった。

そもそもこの作品、ジブリへのオマージュが強く出過ぎた結果、「ジブリのパクリ」みたいになってしまった。このシーンはあの作品のあの場面・・・などと、どこかで見たような演出が続き、なかなか作品世界に没頭できない。ストーリーはそれなりに面白いが、でも「少女の持つ不思議な青い石が光輝くと、不思議な力が・・」ってのはどうみてもラピュタだし、そういえば登場人物の「モリサキ先生」はなんだかムスカっぽい。

ファンの間でも評価はそれほど高くなく、このまま埋もれてしまうと思われたが・・・。

11月公開の「すずめの戸締まり」。あくまでも小説版を読む限りだけれども、これが監督自身による「星を追う子ども」のリメイク、というかリベンジ作品のように思われてならない。

舞台やキャラクターは大きく異なるにもかかわらず、ストーリー上、演出上の共通点がかなり多い。「すずめの戸締り」は、まるで「星を追う子ども」の物語としての構造を維持したまま、その良くなかったところを徹底的に洗い出し、昇華させた作品のようである。しかも、劇中において、明らかにジブリ作品を想起させるようなとある名曲が流れるのだが、これも「ジブリのパクリ」と評されたことへのリベンジのようにも聞こえる(まだ聞いてないけど)。

前置きが長くなったが、「星を追う子ども」の小説版。他昨作品の小説版とはちょっと異なり、基本的には映画どおりに話が進む。新たに追加されたエピソードもあるけれど、これは作品全体の理解を助ける(ひょっとしたら、初期プロットでは存在していた幻のエピソードなのかもしれない。)。読みやすさはシリーズの中でも随一である。

新海誠原作・あきさかあさひ著『小説 星を追う子ども


(ひ)