新海誠原作・大場惑著『小説 ほしのこえ』(角川文庫)

新海誠監督が「すずめの戸締まり」の舞台挨拶で、次のとおり発言したという。

「『ほしのこえ』を作って『セカイ系』と呼ばれていたころは、自分が『すずめの戸締まり』のような作品を作るとは夢にも思いませんでした。」

ほしのこえ」。新海誠監督の劇場用アニメーション映画第1作である。宇宙に旅立った少女と、地球に残った少年の引き裂かれた関係を情緒的に描く。監督がほぼ1人で作り上げたわずか25分のこの作品の中には、交互に繰り返されるモノローグ、美しい風景、大きなクレーター、雨・雪・線路から携帯電話まで、後の作品でみられる諸要素が既にちりばめられている。

その「ほしのこえ」のノベライズ版を先日読んだ。新海誠原作・大場惑著『小説 ほしのこえ』。

新海誠原作・大場惑著『小説 ほしのこえ』(角川文庫)

詩的な雰囲気の漂う映画版とは異なり、こちらはがっつりとした「物語」である。オリジナルの登場人物もかなり出てくる。とはいえ、冒頭のモノローグや、章ごとに入れ替わる視点など、映画版の空気を損なわないような配慮もみられる。特にラストは映画版の「先」を描き、物語としての着地点を読者に示す。

ところでこの「ほしのこえ」。月刊「アフタヌーン」誌でコミカライズされている(漫画:佐原ミズ)。映画版、小説版とはまた違った切り口で「ほしのこえ」の世界を描いており、こちらも評価が高い。

新海誠原作・佐原ミズ漫画『ほしのこえ』(KCデラックス)



(ひ)