新川帆立『競争の番人』(講談社)

ドラマ「競争の番人」の原作が書店に平積みされていて(それも続編と一緒に)、ああ、新川帆立さんだったのか、大忙しやなぁ、と思って手に取る。
作家デビュー2年目にしての著者の「勝負作」なのだとか。
主人公は公正取引委員会のガチ体育会系女性審査官・小熊楓と、東大首席ハーバードで論文書いたキャリア男性審査官の小勝負勉。ある田舎の温泉街での談合疑惑を捜査する中で、次々と周囲に不穏な動きが起こり、2人の身にも危険が迫る。で、最後はすっきり解決して、悪を退治して、話は終わる。

・・・というものなのだが、本作が小説現代に掲載されたのが2021年12月のこと。単行本としての刊行が2022年5月、ドラマ化されたのが2022年7月。
カバーのイラストを見てわかるように、このイラストをまったく同じ顔をしてポーズをとって、ドラマの主人公(杏と坂口健太郎)が写真に収まっている。

「はじめにドラマ化ありき」だったんだろうなぁ、と思う。

残念ながら、『元彼の遺言状』ほどのインパクトは、本作にはなかった。
公正取引委員会という組織に注目したのは新しいし、女性版経済小説かつ女性版寅さんを書きたかったという意図は伝わった。
しかし、ほんとうに残念ながら、中途半端だった。巨悪に立ち向かうわけでもなく、ミステリーとして大どんでん返しがあるわけでもなく・・・。

商業作家のキャリアとしては、順調すぎるほどだ。しかしまだ2年目の新人作家である。
彼女が消費されて枯渇してしまうのではないかと一抹の不安を覚えながら(まぁそうなったら弁護士するかプロ雀士として活躍されることでしょうから生活面での心配はしないけど)、続編は読まないで、剣持麗子の次回作を待とうと思う。

(こ)