杉田俊介『男がつらい!』(ワニブックス)

鎌倉殿、伏線回収しまくりの最終回でした。お見事でした。

 

うちの学校に今年非常勤で来ていただいて、一緒にペアを組んでいる先生が手探りで始めた「男子校におけるジェンダー教育」が、なかなかおもしろい。それは、他者への理解と共感であり、多様性への寛容であり、「らしさ」の呪縛からの解放とその結果としての自己肯定でもあり。

その先生との間で、このあいだ『夫の扶養からぬけだしたい』が話題となった。
漫画家の夢をあきらめ、出産を機に専業主婦となった「ももこさん」。夫の「つとむさん」はとても優しい男性だったのだが、ブラック職場に異動となった。それでも家族のために歯を食いしばって耐えるつとむさん。ももこさんはワンオペ育児に行き詰まり、つとむさんに助けを求める。しかしつとむさんは、それは甘えだとももこさんを突き放す。少しずつふたりの心は離れていき・・・。

ももこさんをしんどくさせる原因となったつとむさんもまた、しんどいのだ。
そして次に話題になったのが『男がつらい!』。

「弱者男性」が、誰にも頼れず、誰ともつながれず、「男性性」ゆえに孤立に向かい、孤独の中で耐えている。ジョーカーはその矛先を社会や強者に向けたが、この国ではその矛先はより弱い者へと向かう。あるいは、耐えて耐えて、それでも耐えきれなくなった先には、その刃は自らに向かう。その弱者男性の姿を、後半では村上春樹(「ドライブ・マイ・カー」)とチェーホフ(『ワーニャ伯父さん』)の批評を通して、浮かび上がらせる。

なんだか希望もなく、ただ切ない評論であった。

(こ)