モーパッサン『オルラ/オリーヴ園』(太田浩一・光文社古典新訳文庫)

光文社古典新訳文庫の「モーパッサン傑作集」。今回は,晩年の中・短編を収録した『オルラ/オリーヴ園』である。

冒頭の「ラテン語問題」がいい。学生の「ぼく」が,中年のラテン語教師に仕掛けたとある「いたずら」をめぐる物語なのだけれど,こういう軽くて飄々として,誰も不幸にならない話というのは,読んでいてどこかほっとする。

「離婚」は,ある男が弁護士に離婚訴訟を依頼する話。男がその身に起こったことを,弁護士に語り聞かせる形式で物語が進む。終盤の展開と,最後の「オチ」がモーパッサンらしい。

「ボワテル」は,人種問題を扱った作品。白人男性が,黒人の娘を見染めたところ・・・。この作品が書かれたのはまだ1889年。時代をちょっとだけ先取りした物語でもある。

「オリーヴ園」は,重みのある中編。小さな村の司祭・ヴィルボワの元に,ある日,一人の男が訪れて・・・。こういう重厚な作品はまた,読み応えがある。

他にも,怪奇小説とでもいうべき「オルラ」,最晩年の作品である「あだ花」など,全部で8編4つの中・短編を収録している。

さて,本書をもって「モーパッサン傑作集」全3巻を一通り読み終えた。モーパッサンが「脂肪の塊」で一躍世に出たのが1880年。そこからの作家人生は,わずか10年程度でしかないのだけれど,その間に書かれた作品は,いずれも時や場所を超え,現在に至るまで読み継がれている。

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光文社古典新訳文庫モーパッサン傑作集』



(ひ)