西條奈加『婿どの相逢席』(幻冬舎)

 

 時は家斉の治世だというから、文化文政の頃となろうか。江戸・新橋に店を構える仕出屋・逢見屋に、楊枝屋の四男坊・鈴之助が婿入りした。逢見屋は代々、世間の習いとは逆に、女将が店を仕切ることになっていて、妻のお千瀬は若女将として女将、大女将とともに忙しく働いている。婿は商売には口を出すなと小遣いを渡され、日がな一日ぼんやりと過ごしている。義妹のお丹とお桃も、鈴之助にはそっけない。

 季節の移ろいと共に、工夫を凝らした料理が次々と登場する。頑固な板長・権三の作る料理はどれも、味も匂いも歯ごたえも伝わってくるようだ。年中行事の描写、江戸の商家の暮らし振り、人々の往来、その描写はいずれも活き活きとしていて、江戸の街にタイムスリップできる。

 ストーリーは後半から、逢見屋を襲ったトラブルの真相に鈴之助が迫っていくミステリー仕立てとなる。事態は意外な展開を見せ、最後は逢見屋のメンバーが全員集合して大団円を迎える。これは夫婦の物語であり、家族の物語でもある。

 さらに、封建社会における個人の自由という問題や、女性の社会進出の問題についても触れられ、上に立つ者が下の者に悪事を働かせて自分がほっかむりを決め込むのは最低だと鈴之助に言わせたりもして・・・(江戸の作家たちもこうやってお上に一泡吹かせていた)。

 読み終えて、ほんわりとあたたかいものが胸に残った。いい本だ。

(こ)