川越宗一『海神の子』(文藝春秋)

 主人公は「国姓爺」鄭成功。ただし、清に滅ぼされた明を再興しようと、福建や台湾を拠点に戦い続け・・・といった「国性爺合戦」のようなスカッと爽快な英雄譚ではない。

 東シナ海最大の海賊の頭領として活躍する母の松に対し、子の福松(のちの国姓爺)は、徹頭徹尾、頭でっかちのおぼっちゃまである(この設定に違和感があったのだが、だからこそこのストーリーが成り立っているので、そこはガマンする)。
 そんな子の策がうまくいかないことを承知の上で、それでも我が子の選んだ(滅亡への)道を歩ませようとする松の不器用な愛。苦悩する夫を支え続ける友夫人の愛。さらには平戸での育ての親・マツと七左衛門の無償の愛。

 英雄譚ではない。これは家族の愛の物語である。

 (こ)