尾脇秀和『氏名の誕生―江戸時代の名前はなぜ消えたのか』(ちくま新書)

澤田瞳子さん直木賞! おめでとうございます!!

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さて。

少し前から気になっていた本。尾脇秀和『氏名の誕生―江戸時代の名前はなぜ消えたのか』。

現在使われている「氏名」。一見すると昔からの伝統かとも思ってしまうが,実は約150年前に明治新政府により制度化されたものである。江戸時代には,現在とは全く違う形で「名前」が使われていた・・・。

江戸時代の人名は,現在のものとは全く異なる。しかもそれが,武家社会と朝廷社会とでも微妙に違う。本書は人名をめぐる江戸時代の「常識」を丁寧に読み解いた上,これが明治新政府によってどのように大きく変えられたのか,様々な資料を引用しながら論じていく。

例えば,誰でもよいのだけれど「大隈重信」を例にとると,これは明治時代に創設された「氏名」であって,江戸時代には,「苗字」である「大隈」と「通称」である「八太郎」とを組み合わせた「大隈八太郎」という「名前」であり,これとは別に,「姓」である「菅原」,「尸」である「朝臣」,「実名」である「重信」を持っていて,これらを組み合わせた「菅原朝臣重信」という「姓名」であった(本書253頁)・・・などなど,もう書いていてもよく分からない。

歴史の教科書には「松平定信」とか「水野忠邦」などと普通に出てくるけれど,本書によると,実は当時の人は誰もそのような呼び方をしていなかったし,彼ら自身も称していなかったとのこと(本書291頁)。

まさに目からウロコの連続。文章も読みやすくておもしろかった。とても勉強になりました。


(ひ)