一ノ瀬俊也『軍隊マニュアルで読む日本近現代史 日本人はこうして戦場へ行った』(朝日文庫)

「入営の挨拶,出征兵士への激励の演説,戦地への手紙,そして『遺書』の書き方まで――日本人は『マニュアル』で戦争を学んだ。」

明治から太平洋戦争期までの間,軍隊での生活や,手紙文例集,式辞・挨拶集などの様々な「マニュアル」が一般の書店で市販されていたという。本書はこれらを整理するとともに,徴兵や戦争といったものに対して近代の日本人がどう向かい合ってきたのかを読み解いた労作である。

本書では,その膨大なマニュアル類を,マニュアルが出現した「明治10年代~日清戦争期」,マニュアルの発達・多様化がみられた「日露戦争期」,平和な時代の「日露戦後~大正期」,そして泥沼の戦争に突入した「日中・太平洋戦争期」の4期に分けて紹介している。

注目すべきなのは,大正デモクラシー期のマニュアルである。シベリア出兵のほかには大きな戦争はなく,基本的には平和な時代であったはずなのだが,マニュアルの出版は絶えない。むしろ,日露戦争での勝利体験をもとに「精神力は物質力を優越する」といった記載がみられるようになったという。筆者はいう。

「昭和10年代の戦時体制とは何もいきなり出現したのではなく,平和であったはずの『大正デモクラシー』期の軍隊教育を通じて準備された,社会的基盤のうえにはじめて形成され得たという言い方もできなくはないのである。」(174ページ)


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