井上荒野『百合中毒』(集英社)

 八ヶ岳山麓の、高原の園芸店。
 母、姉、妹。それぞれの恋人、夫、不倫相手。父は25年前、家族を捨てて出て行った。
 なんとか保たれていた危うい均衡が、父の突然の出現を機に、あちこちで壊れてゆく。父を捨てた女も、妹の不倫相手の家族も、また。
 ずっといなくても「ずっといた」のだろうか。ずっといても「ずっといなかった」のだろうか。

  ネコがユリを食べると危ないらしい。百合中毒とはそのことだ。クレーマーにキレた母が、黒と赤でネコとドクロの絵を描く。
 毒々しい「百合中毒注意」のポスター、カラフルな園芸店の売り場、父の白いレンジローバー、高原の深い緑、遠くの青い山、黄色い百合、すべてに色があって、映像として読む。

 うっとうしい梅雨空のもとで読んだ。ちょうどよかった。今が旬。

百合中毒

百合中毒

  • 作者:井上 荒野
  • 発売日: 2021/04/26
  • メディア: 単行本
 

 (こ)