八ヶ岳山麓の、高原の園芸店。
母、姉、妹。それぞれの恋人、夫、不倫相手。父は25年前、家族を捨てて出て行った。
なんとか保たれていた危うい均衡が、父の突然の出現を機に、あちこちで壊れてゆく。父を捨てた女も、妹の不倫相手の家族も、また。
ずっといなくても「ずっといた」のだろうか。ずっといても「ずっといなかった」のだろうか。
ネコがユリを食べると危ないらしい。百合中毒とはそのことだ。クレーマーにキレた母が、黒と赤でネコとドクロの絵を描く。
毒々しい「百合中毒注意」のポスター、カラフルな園芸店の売り場、父の白いレンジローバー、高原の深い緑、遠くの青い山、黄色い百合、すべてに色があって、映像として読む。
うっとうしい梅雨空のもとで読んだ。ちょうどよかった。今が旬。
(こ)