西加奈子『漁港の肉子ちゃん』(幻冬舎文庫)

 肉子ちゃんは、男にダマされ続け、小5の娘のキクりんとともに、流れ流れて北の漁港にやってきた。この小さな漁師町の狭い人間関係の中で、子どもから少女へと成長していく、キクりんの成長物語である。

 登場人物についての描写はいずれもさらりとしているけれど、よくよく考えればぐちゃぐちゃな人だらけで、これでもかといわんばかり人間の業と欲を押し込んでくる。

 肉子ちゃんには、たぶん発達障害なり軽い知的障害なりがあって、そんな女性が水商売や接客業で働いてろくでもない男の餌食となるというのは、きっとそこらじゅうで実際にある話だ。悲惨な境遇にあるのだけれど、肉子ちゃんは明るい。キクりんは対照的にとてもクールで、小学生なのにどこか達観している。肉子ちゃんは入院してキクりんに大切な話をしながら「ばああああああああああああああっ」と泣いている。そんな醜くて馬鹿な肉子ちゃんをキクりんは、大好きだといった。

 肉子ちゃんは、六道世界を生きる、菩薩なんですよ。

(こ)