森見登美彦『熱帯』(文藝春秋)

以前この欄で紹介した深緑野分『ベルリンは晴れているか』ですが,なんと,今年度の「このミステリーがすごい!」の2位,「週刊文春ミステリーベスト10」の3位に入りました! 決してメジャーな作品ではないにもかかわらずこの順位! いや~,うれしい。 …

野村正實『雇用不安』(岩波新書)

「経済学を学ぶのは、経済学者にだまされないためである」というのがほんとうかどうかはさておき、書店に並ぶ経済学者あるいはエコノミストの本のうち、はたしてどれが正しくて、どれがあやしいのか、という判断は難しい。 ただ、リアルタイムではわからなく…

コンラッド『闇の奥』(黒原敏行訳,光文社古典新訳文庫)

アフリカの奥地で見た「真実」とは。コンラッド『闇の奥』。 船乗りマーロウは,川をさかのぼる蒸気船の船長になるべく,アフリカの奥地に赴いた。そこで耳にしたのは,「クルツ」という男の噂。マーロウは男に会おうとするが・・・。 今から100年以上も…

百田尚樹『殉愛』(幻冬舎)

今週のベストセラー 第1位 大川隆法 第2位 AKB 第3位 百田『日本コピペ紀』 「いい本が売れるのではなく、売れる本がいい本だ」ということではないにしても、出版社としても「売れる本で稼ぎ、その稼ぎで作りたい本を作る」というのは正直なところだろう…

伊坂幸太郎『フーガはユーガ』(実業之日本社)

伊坂幸太郎,約1年ぶりの新作である。『フーガはユーガ』。 ちょっと不思議な双子の物語。Amazonに「あらすじは秘密」とあるので,ここでもまあ,秘密にしておきたい。 しかし伊坂幸太郎,ハズレがない。人間である以上,普通は好調・不調の波がありそうな…

ピーター・タウンゼント(中里重恭翻訳、海渡千佳監修)『ナガサキの郵便配達』(スーパーエディション)

この本は、長崎で郵便配達中に被爆したスミテル(谷口稜曄)の物語である(The Postman of Nagasaki,1984)。 物語は、スミテル少年の家族が長崎に移り住むところから始まる。戦争が始まり、1945年8月9日を迎える。スミテル少年は、背中に大やけどを負いなが…

深緑野分『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)

敗戦後のベルリンを舞台に,一人の少女の生き様を描く。深緑野分『ベルリンは晴れているか』。 1945年7月,4か国統治下に置かれたベルリン。音楽家のクリストフ・ローレンツは,毒による不審な死を遂げる。アメリカ軍の兵員食堂で働く少女・アウグステ…

遠藤周作『沈黙』(新潮文庫)

10代の頃、初めて読んで、震えた。 2回目は、スコセッシの映画を観た後読み返した。 明日から修学旅行の引率で長崎~外海に行く。現地で読む3回目は、どんな感じだろう。 沈黙 (新潮文庫) 作者: 遠藤周作 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1981/10/19 メディ…

太宰治『人間失格』(新潮文庫)

・・・結局,読んでしまった。太宰治『人間失格』。 中学生の頃に読んでから,もう何年になるだろう。僕にとっては衝撃であった。当時読んだ小説の中で衝撃を受けたもの(面白かった,ではなく)を3冊選べと言われれば,間違いなく入った。以後,一度も読み…

『出たばい、ちゃんぽん本。』

中学生に、長崎での一日自由行動の計画を立てさせると、とりあえず昼食は「中華街でちゃんぽん」らしいのですけれど、別に中華街と違ってもいろいろあるのになあ、とは思います。というわけで、今週いちばん印象に残った本が、これ。 自費出版のちゃんぽん本…

塩野七生『ローマ亡き後の地中海世界 1~4』(新潮文庫)

途中まで読んだところで中断していたのだけれど,今回,ちょっと再読。最後まで読んだ。塩野七生『ローマ亡き後の地中海世界 1~4』。 西ローマ帝国滅亡後,地中海世界に台頭してきたイスラム世界と,これに対応するキリスト教世界との攻防記である。ベス…

西岡由香『愛のひと ド・ロ神父の生涯』(長崎文献社)

東シナ海に面した外海(そとめ)は、潜伏キリシタンの村であり、遠藤周作『沈黙』の舞台となったといわれる。国道沿いには「沈黙の碑」が建てられて、角力灘を見下ろす岬の上には3万点もの彼の遺品が納められた遠藤周作文学館がある。 その外海に明治の初め…

太宰治『津軽』『ヴィヨンの妻』(新潮文庫)

太宰治。中学生の頃に『斜陽』とか『人間失格』とか『富嶽百景』とかを読んだのだけれど,まあ一時的なものにとどまり,その後全く読んでいなかった。 先日,ふと書店の文庫コーナーで太宰の本が目にとまった。こういうの,中学・高校生くらいの時に読みこぼ…

本田由紀編『文系大学教育は仕事の役に立つのか』(ナカニシヤ出版)

今年8月、NHK Eテレの「バリバラ」に「障害者×戦争」という回があった。戦時下で「穀潰し」「役立たず」と言葉を投げつけられ続け、中には身内から命を奪われかけた人の証言もあった(きっと実際に手をかけられ命を落とした人はたくさんいたのだろう)。ナチ…

和田裕弘『信長公記―戦国覇者の一級史料』(中公新書)

垣根涼介『信長の原理』読了後,たまたま見つけたので読んでみた。和田裕弘『信長公記―戦国覇者の一級史料』。 「信長公記(しんちょうこうき)」は,織田信長の一代記である。著者は信長の馬廻衆であった太田牛一。「父親の葬儀で抹香を投げつける」,「斎…

有馬哲夫『原爆 私たちは何も知らなかった』(新潮新書)

このブログも、100エントリーを超えました。来週から2年目に突入します。200エントリーに向けて、がんばってまいりましょう。 = 「日本への原爆投下が決定された」という一文の次に、どのような言葉が続くだろうか。「こうして広島・小倉・新潟などが投下目…

三浦しをん『愛なき世界』(中央公論新社)

恋愛小説。いや,恋愛「未満」小説というべきか。三浦しをん『愛なき世界』。 洋食屋の見習い・藤丸陽太は,植物学研究室の大学院生・本村紗英がちょっと気になる。いや,すごく気になる。気になるのだけれども,本村はシロイヌナズナの研究が大好きで・・・…

辻村深月『青空と逃げる』(中央公論新社)

逃避行。ささやかな平和な暮らしが続くほど、次の崩壊が近づく。賽の河原の石積みのように。 母と子は、逃げる。四万十へ、別府へ、仙台へ。そこで出会う人々が優しすぎて温かすぎる。だからこそ、切ない。そして、力は成長する。早苗とともに。 最後の最後…

菅野仁『友だち幻想』(ちくまプリマー新書)

売れている本とか話題書とかは普段はあまり取り上げないのだけれど,この本はちょっと紹介しておきたい。菅野仁『友だち幻想』。 友だちとのつきあい方。人との距離感。そういったことに悩む若者向けに書かれた本である。筆者は社会学者。10年も前に書かれ…

『枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)

こちら、通常国会末の7月20日に行われた、枝野立憲民主党代表による2時間43分のフィリバスター演説(内閣不信任決議案提出の趣旨説明なんだから、フィリバスター=議事妨害だったのかどうかはさておき。)を、ほぼそのまま書き起こして出版されたもの。数枚…

垣根涼介『信長の原理』(角川書店)

先に書きますね~。 --- 垣根涼介の新刊が出た。『光秀の定理』以来の戦国作品,そして初めての「信長」作品である。『信長の原理』。 「何故おれは,裏切られ続けて死にゆくのか。」--織田信長の生涯を軸に,その家臣団らの恭順と離反,裏切り,そしてこ…

聖徳太子『法華義疏(抄)・十七条憲法』(瀧藤尊教ほか訳,中公クラシックス)

『もういちど読む山川倫理』に,「十七条憲法」の興味深い解説があった。第一条の「和」の精神とは,ただ周囲に同調せよという意味ではなく,「みんなが集まってさまざまな意見を述べ合う中から,物事の正しい道理を見い出そうとすること」を指すというので…

黒木亮『島のエアライン(上・下)』(毎日新聞出版)

伊丹空港から熊本を経由して天草空港まで、イルカ姿のプロペラ機が飛んでいる。天草エアラインである。 島民の悲願であった天草空港の開港と、そこに乗り入れる航空会社の確保、それができないならばと自分たちで航空会社を立ち上げ、経営危機を乗り越えてい…

塩田武士『歪んだ波紋』(講談社)

「誤報」をテーマにした連作短編集である。塩田武士『歪んだ波紋』。 5つの短編が収められている。主人公はいずれも現役の新聞記者,あるいは元記者。それぞれの立場から,「誤報」に,そしてその背後にある「悪意」に気づかされる・・・。 記者としての事…

湊かなえ『ブロードキャスト』(KADOKAWA)

へえ、放送部。西加奈子か、佐藤多佳子か、・・・え、湊かなえですか? 思えば10年前の『告白』は衝撃だった。そのイメージがずっと自分の中に付きまとっているので、表紙のデザインも含めてちょっと意外な感じがした。 舞台は高校放送部。ケガで陸上を断念…

中山元『アレント入門』(ちくま新書)/仲正昌樹『悪と全体主義―ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)

ハンナ・アーレント。今ちょっとしたブームである。トランプ政権の誕生後,全米でその著作が再び売れ出した。日本でも昨年,『全体主義の起原』と『エルサレムのアイヒマン』の新版が出版された。このうち『全体主義の起原』はNHKの「100分de名著」で…

「ホーム」をめぐる7つのショートストーリー(ビッグイシュー日本版)

今号のビッグイシューは、15周年を記念して、「ホーム」をめぐる7編の短編集が巻頭特集になっていた。 曰く、“ホーム”には、家、家族、故郷、故国、住処、居場所、隠れ場所、収容施設、乗降場、発祥地、本場、本拠地、陣地……など無数ともいえる意味があり…

村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)

ディストピア小説か,それともユートピア小説か。村田沙耶香『消滅世界』。 2年前の芥川賞受賞作『コンビニ人間』は衝撃だった。何が普通で,何が普通ではないのかという感覚が,根元から揺さぶられた。その『コンビニ人間』よりも「遙かに力作」(佐藤優・…

西原理恵子『上京ものがたり』(小学館ビッグコミックス)

NHKーBS1に「最後の講義」という番組がある。今日が最後の一日だとしたら、あなたはどのようなメッセージを残しますか?、というもので、先週の放送では、りえぞう先生が東京女子大学で学生さんを相手に、女性の生きざまについて語っていた。真面目に…

須賀しのぶ『夏空白花』(ポプラ社)

夏。終戦。そして,高校野球。須賀しのぶ『夏空白花(なつぞら・はっか)』は,終戦直後,「全国中等野球大会」(後の高校野球)復活のために奔走する一記者の物語である。 話は昭和20年8月15日,玉音放送の場面から始まる。新聞記者の神住(かすみ)は…