村木嵐『まいまいつぶろ』(幻冬舎)

 御所グラウンドではうちのチビが毎週野球やってますが、まだ沢村栄治には会ったことないみたいです。

 さて。

 徳川将軍15人を挙げていくとして、家康、家光、吉宗、慶喜くらいは学校の教科書に出てくるし、秀忠とか綱吉とか、あと家斉くらいはまぁ出てくるとして、9代家重はまぁ最後の方にしか出て来ない(というか、たぶんほとんどの人の口には上らないのでは?)。
 家重には生まれつき障がいがあり(脳性麻痺といわれている)、実は女性だったのではという珍説もあるらしい。後者についてはよしながふみさんに任せるとして(?)、本作品の主人公は、家重と、彼を一生涯支え続けた大岡忠光の主従である。

 8代将軍吉宗の長男・長福丸は、言葉を発することができず、獣のような声をあげるしかできない。しかもよく失禁しては袴の裾を濡らして跡をつけているので、「まいまいつぶろ」(かたつむり)と陰口をたたかれている。誰もが弟の小次郎が、跡継ぎとなると思っている。
 そんなとき、大岡越前守忠相の遠縁にあたる兵庫という男子が、将軍の御目見得の中に加わった。いつものように奇声をあげた長福丸に対し、兵庫が何かをつぶやいた。兵庫には、長福丸の言葉が理解できたのである。長い長い間、如意に動かぬ身体の檻の中に閉じ込められていた長福丸の魂が、解放された瞬間であった。長福丸は元服し、京から正室も迎え、嫡男として吉宗の期待を集める。一方で、弟・宗武を担いで家重の廃嫡をめざす勢力もあきらめない。

 本書は家重主従の生涯を、最後まで描き切る。一気に読み切るというよりは、じわじわと蝸牛のように読み進めていった。そういう文章なのだ。

 実際のところ、家重がどのような人物だったのか、はっきりとはわからない。遺言で田沼意次が10代家治の側用人となったというのも、どうだったのかはわからない。ただ、言葉のみならず、魂で通い合った主従が存在したことは、事実である。

 

 村木さんもだし、直木賞を受賞した万城目さんも京大法学部卒。村木さんの方が少し上なので、キャンパス内ですれ違ったことはなさそうだ。平野啓一郎さんといい、森見登美彦さんといい、宮島未奈さんといい、なんだか最近、京大卒業生が元気。

(こ)