関 幸彦『刀伊の入寇』(中公新書)

せんせいが『戦争の日本古代史』を推してきたということで、こちらはこれを紹介。関 幸彦『刀伊の入寇』。

藤原道長政権下の1019年、対馬壱岐と北九州沿岸が女真族によって襲われる。この平安時代最大の対外危機ともいえる「刀伊の入寇」について、その背景から経緯、後世に与えた影響までを解説した本である。

防衛に当たったのは、藤原道隆の子・隆家。道長の甥に当たる。有力武者を統率して奮闘し、これを撃退するも、死傷者や拉致被害者は多数に上った。

本書はこの「刀伊の入寇」につき、日本側の軍制史という視点からも論じているのが興味深い。律令軍団制の形骸化と、軍事官僚ともいうべき新しいタイプの中下級官人の出現。そして、新羅海賊の度重なる侵攻と、これへの対応策としての俘囚(中央政府に帰順した蝦夷)の西国防衛への転用。そのような中で、「刀伊の入寇」は起こった。

当時の被害者の生の声も複数残されており、本書でもその一部が引用されている。特に、刀伊軍に拉致され、後に高麗船に助けられて帰還した女性の証言は、時を超えた臨場感があり、生々しい。

何にせよ、平和が一番である。

関 幸彦『刀伊の入寇』(中公新書


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